【田原】学生時代には自分で企画して動いていたのに、卒業後は起業せずゴールドマン・サックスへ。なぜですか。

【仲】昨今の就活は、入るのが難しい会社に行くのが勝ちという風潮があるじゃないですか。とにかく偏差値の高い大学を目指す受験戦争に近い。私も当時はその風潮に流されていました。あとは一流の人たちの働き方を見てみたいなと。

ウォンテッドリー CEO 仲暁子氏

【田原】入社後はどんなお仕事を?

【仲】日本株の海外機関投資家向けの営業です。外国のファンドマネジャーに、日本の株を買ってください、売ってくださいというお仕事でした。

【田原】その仕事、おもしろかった?

【仲】優秀な方がまわりにたくさんいて、とても刺激になりました。ただ、仕事をゼロイチとイチジュウに切り分けるとすると、私はゼロイチのほうが性に合っていたので、すでにある仕組みを回すことが中心の仕事に物足りなさはありました。

【田原】それで約2年でお辞めになった。お母さんが背中を押してくれたそうですが、どういうことですか。

【仲】母は心理学者です。学者は基本的に儲かりませんが、母は好きな研究をずっとやり続けて、40代以降になってようやく社会的地位や経済力がついてきた。そういう姿を見てきたので、私も好きなことをやり続けていたら、たとえいまお金にならなくても、いつか報われるんじゃないかと。母というモデルケースがあったおかげで一歩踏み出せました。

【田原】会社を辞めてからは何を?

【仲】本気で漫画家になろうと思って、当時母が働いていた北海道にこもって漫画を描きまくりました。

【田原】漫画がお好きだったの?

【仲】絵を描くのが好きなんです。イラストレーターを目指すのでもいいのですが、ちゃんと食べていこうと思ったら漫画家かなと。漫画は小学生のころから描いていました。

【田原】漫画家って、どうすればなれるんですか。

【仲】投稿ですね。出版社に漫画の賞があるので、そこで目に留まればデビューできます。ただ、私は30作品以上描いたけどダメでした。いいところまで残ったこともありましたが、描けば描くほど迷走して、最後は箸にも棒にもかからなくなって……。

【田原】デビューできる漫画家とできない漫画家は、どう違うんですか。

【仲】いいんですか、こんな話して(笑)。私が思うに、漫画の重要な要素は3つ。1つ目はストーリーで、2つ目はコマ割りなどの演出。そして3つ目がキャラクターです。私はキャラクターをつくる力に欠けていました。人生経験が豊富だったり、いい漫画をたくさん読んでいると強いキャラクターをつくれるのかもしれないけど、そこが弱かったですね。