シャッター街はマイナスか?

図表4は、世帯当たり名目GDPにおける2005年度から2014年度まで10年間の平均と、世帯当たり自動車保有台数の関係を示している。東京都、大阪府、神奈川県、京都府、兵庫県は、他の地域と異なり世帯当たりの自動車保有台数が1台を下回っている。鉄道による移動が主で、車社会とは一線を画している。

着目すべきは、それ以外の県では世帯の所得水準が高いほど自動車が普及しているということだ。車社会になって商業の中心地が郊外のショッピングモール集積地に移転。伝統的な商店街が相対的に地盤沈下しシャッター街の様相を呈しているが、そこから受ける印象に反して、車社会が進んでいるほど住民の暮らしぶりは豊かであるかもしれない。伝統的な中心地の寂しげな印象をネガティブにとらえるべきではないと思う。

つまり、大都市圏はともかくとして、地方都市には地方都市の発展の仕方があるのではないか。それは必ずしも伝統的な中心市街地に過去の栄華を取り戻すことではない。式年遷宮ではないが、中心地は主要な交通手段の変遷によって外へ外へと移転する。この事実を受け入れ、新しい発想で中心市街地を再生するのが、市街地活性化のポイントではないか。

「住まう街」としての再生可能性

伝統的な中心地はこのまま衰退していくのか。それも違うと思う。時代にあった新しい生かし方がある。地方都市においては、旧中心地は「住まう街」としての再生の可能性が大いにあることだ。旧城下町は元々歩く人のサイズにあった街だった。車道が狭く、駐車場が少なく市街地に車が入りにくいという「弱み」も、住むための街と発想を転換すれば強みになる。

冒頭の青森市の中心市街地でも「住まう街」として見れば、再開発ビルと同じようにまちづくりの失敗事例と評価するのは早計である。2003年に閉店した松木屋百貨店の跡地に2005年には15階建てのマンションが建った。かつて賑わっていた商店街の通りに面してマンションが目立つようになり、周辺は住宅街の印象さえ漂う。2007年には高齢者対応型マンションを核とした複合ビル「ミッドライフタワー」が完成した。

地方都市の“市街地活性化”が失敗する理由は何か。それは交通史観を真っ向から否定し、時代に逆行したやり方で活性化策を進めているからではないだろうか。シャッター街は見た目ほどマイナスではない。元々の中心市街地の生かし方によっては、歩くサイズにふさわしい、インフラも充実した住みやすい街になる。連載ではそれを「路線価」を手掛かりに追いかけてゆく。全国の地方都市を題材に、最高路線価地点の変遷に着目しつつ、街の成り立ちについて考察してゆく。そのうえで、どのような課題を抱え、「生き残る街」のためどのような解決策があるのかについて考える。

タイトルこそ「生き残る街、消え去る街」だが、厳密に言えば消え去る街はない。このまま無策で放置したり、あやまった方法でやみくもに再開発を繰り返したりした場合に消え去るという意味にとってほしい。消え去る街が新たな発想で生き残るような活性化策のヒントを提供してゆきたい。

鈴木文彦(すずき・ふみひこ)
大和総研金融調査部 主任研究員
1993年地方銀行入行。2004年財務省東北財務局に出向(上席専門調査員)。08年大和総研入社。17年より現職。専門は、地域経済、地方財政、PPP/PFI。
 
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