リーダーとドン。2つの顔を持つ男

私が田中角栄という政治家を高く評価する理由として、日本でもっとも多くの議員立法を成し遂げたことを一番にあげたい。そして彼がつくった法律からは「リーダー」と「ドン」の2つの顔を見ることができる。

最強のリーダーシップを発揮した田中角栄
「角栄の、時に強引とも見える手法も、後から歴史を振り返れば日本にとって必要なことばかりだった」と飯島氏。「これからの日本にここまでの政治家は現れるだろうか」と嘆いた。

彼が初めて手掛けた法律は、当選2期目の1950年に成立した「建築士法」である。

当時はまだ戦後の混乱期で、日本中の大都市が焼け野原からの復興を目指していた。中でも首都圏は、戦時中の空襲で焼け出されて住宅を切実に求めていた人々のために、600万戸の住宅が必要だといわれていた。角栄はこうした人々が悪徳業者に騙されてはいかんと考えた。建築士法第一条には「この法律は、建築物の設計、工事監理等を行う技術者の資格を定めて、その業務の適正をはかり、もつて建築物の質の向上に寄与させることを目的とする」と記され、角栄の思いを読み取ることができる。リーダーの発想である。

法律では、一級建築士の免許を取得するための試験まで規定されているのだが、当初は経験者などには無試験で資格を認めるという抜け道も用意されていた。現場で建設に携わる人々の利便性を考え調整するのは「ドン」の発想だろう。

実際、この抜け道を利用して角栄も一級建築士の資格を取った。そして第1号として登録されたのが角栄自身という伝説までできた。実際の登録番号は1番ではなかったようだが、角栄自身の「一級建築士」」という資格への思いは強く、日本経済新聞の連載「私の履歴書」にも「一級建築士」という肩書を使っていたほどだ。