私はいずれ日本もヨーロッパのようなバケーションを取るようになると思っていたのだが、これが全然ならない。バケーションのスタイルが後進国のままなのは日本と韓国ぐらいのものだろう。韓国にもとんでもない金持ちはいるが、彼の国はやっかみの文化だから人目に付くような派手な遊び方はしないのだ。

日本では1泊か2泊の家族旅行がせいぜいで、家族で長期休暇を過ごすスタイルがなかなか根付かない。これは休みの取り方だけではなく、学校や日頃の家族関係にも問題があるように思う。週末は家でゴロゴロしているか、仕事にかこつけてゴルフに出かけてばかりで、日頃からまともなコミュニケーションを取っていない夫、父親に対して、家族が長い時間を共有したいと思うだろうか。日本のバケーションの貧しさの背景には、相続や介護トラブル、熟年離婚などにもつながる家族崩壊の問題が横たわっている。

部下の有給休暇取得を阻んだらパワハラだ

しっかり休むことは大事なことで、仕事の生産性向上にもつながる。働き方改革とは、休み方改革でもある。有給休暇は労働者に与えられた権利。それを妨害する行為はパワハラであって、有給休暇が自由に取れないような職場はブラックであると、もっと主張すべきだ。いまどき、「この忙しいときに休みを取るのか」などと有給休暇を取るのを邪魔立てする上司は、パワハラで訴えられたら一発でアウトだ。

それにしても、プレミアムフライデーの空振りから強く感じられるのは、休暇が取りにくい日本の労働慣行であり、休みさえ指示命令がないと取れない、「取れない」というより「取らない」心理である。上から「休暇なんか取るな」と言われるまでもなく、そう思ってしまうメンタリティは相当に深刻だ。森友学園や加計学園の問題で官邸の最高レベルに対する官僚の「忖度」が問題になっているが、日本のサラリーマン社会も「忖度」のネットワークが張り巡らされていて、社員を雁字搦めにしている。有給休暇が半分しか取れないほどに、である。

サラリーマンは忖度のクモの糸から永遠に逃れられないのだろうか。私はそんなことはないと思う。クモの糸を取り除いて自分の好きに行動したとしても、仕事で結果を出していれば排除されることはない。会社側も退職に追い込む勇気はないだろう。逆に休暇をしっかり取って、結果を出している人のほうが評価される時代になってきている。

働き方改革と休み方改革、どちらにとっても重要なのは仕事に対するオーナーシップではないかと思う。自分がその仕事のオーナーだ、という意識を持つこと。勤め人であっても、与えられた仕事については自分がオーナーだと認識すればすべて自分でマネジメントできる。そして結果を出せばいい。「この仕事のオーナーは自分だ」というメンタリティを持てない人は、雇われ根性が抜けないから、会社としても「仕事を任せて安心」とはならない。いつまで経っても雇われ根性だから、休みたいときに休めないのだ。これこそ安倍晋三首相の言う「働き方改革」の1丁目1番地だと思うが、どうだろうか。

(ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一 構成=小川 剛 写真=AFLO)
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