CSVの2つの考え方は、図のように整理できます。青い領域は経済的価値をゴールとするモデルで、その外側を含めた領域が経済的価値と社会的価値の合計をゴールとするモデルです。

経済的価値をゴールとするモデルの場合、経済性追求投資とは、生産性向上や研究開発、広告宣伝などのように、純粋に経済的成果を生むための投資です。一方、社会性追求投資とは、前述の低所得者コミュニティへの無償教育提供のように、自社にとってより望ましい事業環境を整えるために社会・環境に投資することです。この投資は直接的には社会的成果を生みますが、間接的に経済的成果も生み出し得ます。

経済性追求投資をして経済的成果を生むことや、社会性追求投資をして社会的成果を生むことは当たり前のことです。それだけではなく、経済性と社会性の両方を追求するモデルでは、この図のたすき掛けの部分を生み出すこと、つまり経済性と社会性をクロスオーバーさせて事業をデザインする能力が重要になってきます。CSVに取り組む企業には欠かせないこの能力を、私は「社会経済的収束能力」と呼んでいます。

競争戦略は、いかに他社よりも秀でるかを考えることです。CSVにおいても同様で、いかに他社のできないことをするか、希少な存在たり得るかが重要です。従って、どの企業にもできることではありませんし、これまでさまざまな企業を取材してきた経験から言っても、CSVの実現はそう簡単ではないというのが実感です。日本にはそもそも共有価値に近い概念がすでにある、とよく言われますが、そうした標準化された文化的属性を乗り越えて、自社の独自性を発揮することが求められます。企業があまねく実行できるような戦略では競争優位は実現しません。