メンタルを鍛えることが一番難しい

私は常に本能で生きていて、思ったことをスッとやるタイプ。人間、考えすぎるのは良くないので、あまり深く考えずに取り組むことも大切だと思うんです。

例えばテレビのお仕事の場合、台本があれば覚えられますが、台本がなければ何をしゃべったら良いのか悩みますよね。そんなときは、ある程度その番組の趣旨を理解したら後は思ったように話すしかないと覚悟を決めます。これはレスリングでも同じ。最後は戦う覚悟なのです。

吉田沙保里●1982年生まれ。父の指導のもと3歳よりレスリングを始める。女子レスリング個人で世界大会16連覇、個人戦206連勝を記録。霊長類最強女子と称される。2016年リオデジャネイロオリンピックで日本選手団主将を務めた。(写真=時事通信フォト)

不思議に思われるかもしれませんが、勝負の世界では、練習中は強くても本番で勝てない選手もいますし、練習では全く勝てないのに、本番に強い選手もいます。そこは集中の仕方や気持ちの問題。やはり最後は気持ちが勝敗を左右するので、いくら人一倍練習をしても、ここぞというときに気持ちが強くないと勝つことはできません。

30年のレスリング人生で思うことは、このメンタルの部分を鍛えることが何より難しいということ。そのために練習が必要ですし、試合で勝てるような、緊張感のある練習を積むことが重要です。これだけ厳しい練習をしたんだからと思えることが大きな自信になるのです。

レスリングを通して学んだことは日々の生活にも影響しますし、反対に自分の性格もレスリングに反映します。先ほど本能で生きていると言いましたが、私は小さい頃から何でもテキパキとしたい、せっかちで負けず嫌いな性格。例えばクレーンゲームでこの人形が欲しいと思ったら、いくらかけてでも取れるまで続けます。ものすごい集中力で挑みますが、取った人形をかわいがるというわけではなくて(笑)。取ることができたらそれで満足なんです。それだけひとつのことに執着してしまう。言ってしまえば自分のことしか考えていない自己中な性格なのですが、ありがたいことに周りの方に支えられてここまでやってきました。