「そういう古くさい考え方だからダメなんだ。有名人なんかに頼らずとも、ネットでバズるようなストーリーをつくってインフルエンサーを使って……」と、今話題の「宣伝会議」のセミナーで教えていそうなことを主張する方たちもいるだろう。

もちろん、そういうオシャレなやり方ができればそれにこしたことはないのだが、現実はなかなか難しい。お金の出どころである主催者側が「リスクをとった挑戦」ではなく、「ほかと同じ程度の成果」を求めているケースのほうが圧倒的に多いことに加えて、現場もそういう小難しいPR戦略を敬遠する傾向がある。

それは、3番目の制約である「マスには小難しい話をしてはいけない」という思い込みがあるからだ。

「マスに刺さるにはわかりやすさ」神話

マスに広まるものは、単純明快でなくてはいけない。小難しい理屈をこねくりまわしても、結局、刺さるのは一部のマニアックな人々であって、マスマーケットをとれない。

つまり、PRをする側には、大衆にはとにかくわかりやすく、小難しい話をしても「売れない」という強迫観念のような思い込みがあるのだ。それをうかがわせるのが、今回の『ハクソー・リッジ』のPRイベントで、ダチョウ倶楽部のみなさんが述べた作品への感想だ。

「映像がとにかくすごくて、戦争の怖さを感じました」(肥後さん)
「主人公の『武器を持たない』という信念を貫く強さに感動しました」(寺門さん)
「メル・ギブソン最高! 戦争は絶対にしてはいけません」(上島さん)

「いくらわかりやすくと言っても、これじゃあ魅力が全然伝わらないよ」という人もいるだろうが、このイベントは「なんかわかんないけど感動する戦争映画みたいだし、今度のデートで行ってみるか」というような「無関心層」を狙っているのだ。

実は『ハクソー・リッジ』の舞台となった浦添市の前田高地には、昨年のアメリカでの公開以降、世界中から映画ファンが多く訪れている。浦添市では平和学習やパネル展を展開。浦添市観光協会が企画した『映画「ハクソー・リッジ」の舞台となった浦添城跡前田高地を巡るツアー』も大きな反響を呼んでいる。

『ハクソー・リッジ」公式サイトより

ならば映画配給会社もこういう作品にあったPRをすべきだと思うかもしれないが、マスビジネスをしている人たちはそうは考えない。極端な話、沖縄戦に対して強い関心を持っている方や、映画ファンのみなさんは、大して宣伝をしなくても映画館に足を運んでくれる。

ただ、その観客動員だけでは、北海道から沖縄まで250館以上の映画館で封切られる「ハリウッドの大作」としての興行成績はのぞめない。沖縄戦にも、戦争映画にも興味がない、「メル・ギブソンって誰?」というような人――つまりマスをいかに映画館に足を向けさせるかを考える。

それに加えて、浦添市のようなPRを全国展開することに腰が引ける事情もある。

アンジェリーナ・ジョリーが監督を務め、やはり日本軍が「悪役」として登場した『不屈の男 アンブローク』(16年)に対し、「反日映画」として公開前に反対運動が起きた事例があるからだ。『不屈の男』は、実際にはイデオロギーに凝り固まったものではない。にもかかわらずネガティブキャンペーンが起きたということは、主人公を苦しめる日本兵が登場する『ハクソー・リッジ』も同じリスクがあると考えるのは、配給会社ならば当然であろう。

公開前にそのような虎の尾を踏まず、なおかつ「戦争映画」と聞くだけで敬遠しそうな「無関心層」の注目を集めようと苦心した結果、あのような「謎」のPRイベントが企画されてしまったのではないか。

「そんなのは大衆をばかにしすぎている。だから日本の映画ビジネスは衰退するのだ」

いろいろなご意見があるだろうが、こうしている今も、製品やサービスとかけ離れたタレントがイメージキャラクターとして起用される不可解なPRイベントが、日本のどこかで行われている。

日本において「PR」とはいったい何かということが確立されない限りは、「謎イベント」は決してなくならない。