あなたの組織が素早く動けない理由

「会議より飲み会に出たほうが、仕事に必要な情報を集めやすい」「中期計画なんて形だけつくるもので、現場では役に立たない」「事業部長は大まかな方針だけ打ち出せばいい。市場での具体的な方策は現場を知る部課長以下で考えるべきだ」

大手町の大企業。このなかにも不況下で迅速に動ける「軽い」企業と、そうでない「重い」企業がある。

大手町の大企業。このなかにも不況下で迅速に動ける「軽い」企業と、そうでない「重い」企業がある。

社内を見渡したとき、誰でもいくつかは思い当たる言葉だろう。しかし、こういった傾向が強い組織には、ほぼ間違いなく、事業活動を進めるうえで望ましくない状況が起きている。

日本企業が、急速に変化する製品市場にどう対応しているのかについて考察するため、2004年度から2年おきに大企業への質問票調査を実施してきた。日本の大企業は、ビジネスユニット(事業部などの組織単位)のミドルクラスが組織を動かし、市場への適応を担うことが多いため、調査はビジネスユニット単位で行っている。

今年で3回目の調査によると、企業や業種を問わず、市場への適応を妨げる組織的な特性が存在することが明らかになってきた。事業活動から見た組織の劣化度合いを示すもので、私たちはこれを「組織の〈重さ〉」と呼んでいる。組織が重いほど、最終的に組織があげる成果に悪影響を及ぼすこともわかってきた。

ここで言う「重い組織」は、新たな方策を立てて組織が一丸となって行動しようとすると多大な労力がかかったり、結局何も変わらなかったりするような組織である。合理的な判断に基づいて迅速に動けない組織は市場の動きにうまく対応できない。

とりわけ日本ではトップダウンより、ミドルクラスが事業にかかわる中核的な戦略を立案し、組織的に戦略を実行していく傾向が強いとされており、影響は決して小さくない。

組織の〈重さ〉を構成する要因は大きく次の4つにまとめることができる。

1つ目は、「過剰な『和』志向」である。組織が機能するには、適度な「和」は必要だが、過剰になると、一人でも反対意見が出れば議論がまとまらなくなるといった事態を招き、必要な議論すら敬遠されてしまう。また、変化を拒み、現状維持への志向が強くなる。

2つ目は、「内向きの合意形成」である。製品市場でライバル企業よりも優位に立つには、顧客を重視し、ライバル企業の動向を注視しなければならない。ところが、組織内部の事情が優先されると、この最も重要な部分がおろそかになり、製品市場で有効な手段を講じることができなくなってしまう。

3つ目は「フリーライド(ただ乗り)」だ。評論家のように口は出すけれど責任はとらない。チームの一員としてやるべき仕事であっても、どこか他人事のように考えている。こうした社員が多いと、組織を動かそうとすると多大な労力を必要とする。

4つ目は「経営リテラシー(基本的な考え方)の不足」である。経営に関する基本的な考え方が理解できていない管理職が多いと、問題解決につながらない方策が打ち出されたり、誤って理解されたりして、的外れな方向に組織が動いてしまう。

われわれは、これらの要素を前提とした質問項目から、組織の〈重さ〉を測定している。各組織で、〈重さ〉に相当差があるだけではなく、1つの企業の中に軽い組織と重い組織が共存している場合も少なくない。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=山下 諭 撮影=澁谷高晴)