転職先の企業風土が自分に合うかどうか

この能力を有する人は、一般的にはプロデューサー型人材と呼ばれるタイプであり、起業に適正がある人ともいえます。私どもの会社では「指揮者型人材」と定義しており、恒常的にイレギュラーなことが発生するような職種や職位に就いている人、企業の危機的状況に対応できるリーダーになるためには不可欠な能力といえます。

反対にQさんの前任であった財務・経理畑出身の室長は、むしろ「How能力」のほうが強い人といっていいでしょう。こちらは論理的思考を得意とし、すでに構築されたやるべきこと(How)をスムーズに運用、推進することに適しています。マニュアル化できる側面もありますので、事務や手続き的な業務には向いていますが、経営者が求める経営企画の改革にはQさんのような人材が必要でした。

また、彼が若い時代に在籍していた消費財メーカーと今回のクライアント企業は、どちらも純日本的な社風をもち、どこか似通っていたことも、この転職がトントン拍子で進み、結果的に成功した要因だった気がします。実際、1、2回の面談で、経営者だけでなく、上司やスタッフとの相性が良いことがわかり、すんなりと入社が決まったのです。

転職後、Qさんは、ひとまず課長代理のポストに就きましたが、その後、予定通り、経営企画室長となり、現在は同社の副社長を務めています。こうした配慮も、日本の会社においては大切です。いきなり外部の人が重職に座るのは、内部の不協和音を生みがちだからです。Qさんは役職の段階を踏みながら、短期間で部内や社内から認められる実績を積み、ポストを駆け上がっていきました。

転職の際は、仕事のやりがいだけでなく、給料のアップを期待する人は少なくありません。もちろん金銭も大事な要素ですが、私はいつも候補者に対して、「転職先の企業風土が自分に合うかどうか、慎重に考えて見極めたほうがいい」とアドバイスしています。企業風土は自分の力ではどうこうできる問題ではありません。新しい職場になじめなければ、数年で辞めざるをえないでしょう。それはその人にとっても、企業にとっても不幸なことです。

私たちが候補者の人たちを測る物差しは、尺度を固定化しているわけではありません。ある尺度ではNGとなる人でも、クライアント企業の物差しで測ればOKという人はたくさんいます。とりわけ重要なのは社風が合うかどうかです。専門知識、スキル、キャリアといった部分だけでは、残念ながら絶好のマッチングにはなりません。

専門知識、スキル、キャリアといった尺度だけで、活躍の場を固定させてしまうのはもったいないことです。業種や職種を超えた転職であっても、成功する可能性は十分にあります。その際、待遇やキャリアだけで軽々しく判断しないことが重要です。

武元康明(たけもと・やすあき)
半蔵門パートナーズ 社長
1968年生まれ、石川県出身。日系・外資系、双方の企業(航空業界)を経て、19年の人材サーチキャリアを持つ、経済界と医師業界における世界有数のトップヘッドハンター。日本型経営と西洋型経営の違いを経験・理解し、企業と人材のマッチングに活かしている。クライアント対応から候補者インタビューまでを自身で幅広く手がけるため、全国各地を飛び回る。2003年10月にサーチファーム・ジャパン設立に参加、08年1月に社長、17年1月~3月まで会長就任。現在、 半蔵門パートナーズ代表取締役。大阪教育大学附属天王寺小学校の研究発表会のほか、東京外国語大学言語文化学部でのビジネスキャリアに関する講演などの講師としても活躍。著書に『会社の壁を超えて評価される条件:日本最強ヘッドハンターが教える一流の働き方 』など。
(取材・構成=岡村繁雄)
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