2017年7月14日(金)

沖縄とネパールと食堂かりか

この夏、いちばんカレーな海

dancyu 2015年8月号

文・川口美保 撮影・G-KEN

そのネパール料理店は海辺にある。沖縄本島の南、美しき新原ビーチにある。目の前に広がるのは海だ。足下は海に続く砂浜で、見上げれば空。ここでネパール人シェフがつくるカレーを食す。すべてが気持ちいい。何より、愉しい。

(左)貝殻の装飾がたまりません。キッチンの小窓から顔を出すのは、ジェイシーさん&聖子さん夫妻。夫がつくった料理を、妻がビーチの客席へと運びます。

「主人はカレー屋をやりたくなかったんです。沖縄で農業をやりたかったみたい。でも、最初にここに来たときに、こんなところで店がやれたらいいな、と思ったんですよね。砂浜から店がそのまま繋がっていることにまず驚いて。そしたら、たまたま、ここでお店をやれることになったんです」

山間の小さな集落を通り、海に続く小道を抜けると、そこに広がっていたのは夢で見たような南の島の風景。目の前の白い砂浜では、今朝、ウミガメが産卵したのだと、すぐそばに住んでいる94歳のおばぁが教えてくれた。青く穏やかな海には小さな魚が泳ぐのが見える。アーサ(アオサ)採りをする近所の人の姿がある。沖縄本島南に位置する新原(みーばる)ビーチ。島の原風景が残るこの場所に出合わなければ、おそらくナラヤン・ジェイシーさんと聖子さん夫妻はカレー屋をやっていない。

「ここはどんなにお金を出しても買えない風景」

聖子さんはそう話す。

「集落には年配の方が多くて、静かに暮らすことを望んでいます。そういう中でこの店を貸してもらえたのは、本当に『たまたま』なんです」

「たまたま」。この言葉は、2人が新原ビーチで営むネパール料理店「食堂かりか」の物語に欠かせないキーワードだ。

ジェイシーさんはネパール生まれ。インドのデリーにあるインド・ネパール料理の名店で修業を積み、26歳のとき、出稼ぎ先の候補として挙がった日本とイギリスの2つの中から、たまたま、日本を選んでやって来た。岡山のネパール料理店で働きながら、そのとき出会った聖子さんと結婚。その後、別の土地での生活を考えたときに、「外国人だから沖縄は住みやすいだろうと、本当にたまたま」と、旅行でも一度も訪れたことのなかった沖縄への移住を決めてしまったのだという。

しかし、ジェイシーさんは沖縄でカレー屋をやりたくなかった。とはいえ、生活していく必要がある。しぶしぶ、県内のカフェで働き始めた。そこでたまたま、彼の腕は認められた。新原ビーチで数年使われていなかったパーラーがあり、そこを知る人の後押しもあって、あれよあれよと、憧れのビーチで店をオープンする運びとなった。移住してわずか1年足らずのことだ。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

川口 美保