結局のところ、政府が現行政策と次期総裁の下での政策の一貫性も重視していると見られることも踏まえると、現執行部からという可能性があるのではないか。順当な候補は、中曽副総裁、雨宮理事と見られるが、伝統的な日銀マンと考えられる中曽副総裁より、政治とのコミュニケーション能力に長けているとされる雨宮理事を官邸は好むのではないか。

森金融庁長官が有力との見方も

雨宮理事は、昨年9月の総括検証からイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)への移行のストーリーを描いたと言われ、現行の金融政策を熟知しているだけでなく、おそらく金融政策の出口への腹案もあると見られる。過去、理事から総裁に昇格した例は、戦後の公職追放で一段飛ばしでの就任となった一萬田尚登総裁だけで、本来なら中曽副総裁の総裁への昇格、雨宮理事の副総裁就任が順当である。しかし、特にねじれ国会などの制約もない中で、官邸が日銀出身者2人をあえて提示するとは考えにくい。

官邸からの信頼が厚いと見られることから、森金融庁長官が有力との見方もある。日銀の政策目標は物価の安定と金融システムの安定にあり、財務省出身で、金融監督に精通する森長官は有力な候補と言えるかもしれない。森長官は3期目続投が決まったが、真に必要であれば、途中でも日銀総裁へ転じる可能性は完全には排除できまい。

任期が1年毎で、在任3年でも異例の長期とされる金融庁長官と比べ、日銀の総裁・副総裁の任期は5年で、より長期的に金融システムの安定に資することが可能とも言える。ただ、日銀のプライオリティはあくまで金融政策の舵取りにあることを踏まえると、森長官をわざわざ日銀総裁に起用する可能性は高くはないのではないか。

Q6:黒田総裁の続投の可能性はないのか?

来年で73歳という高齢については、菅官房長官は続投の障害にはならないと述べている。かつて速水優総裁も73歳になる直前での就任であった。続投の可能性も決して排除はされないだろう。ただし、財務省出身で、消費増税の実施を含む財政健全化に拘る黒田総裁と、財政健全化を主張しつつも、まずは経済を最優先とする官邸の間で、財政・金融政策を巡る意見が常に一致しているわけではないと見られる。

2%目標は未達だが、デフレ脱却に一定の成果を収めたことをもって黒田総裁は勇退、ということになるのではないか。なお、黒田総裁の続投に関しては、安倍首相に近いとされる中原伸之元日銀審議委員が反対していると一部週刊誌が報じている。

Q7:新総裁・副総裁の下で政策委員会における新たなパワーバランスはどうなるか?

アグレッシブな緩和に否定的な木内・佐藤両審議委員に替わり、積極緩和に慎重と見られる鈴木氏、リフレ派で官邸に近いと見られる片岡氏が就任することで、政策委員のパワーバランスは積極緩和+官邸色が強くなるが、黒田総裁の強いリーダーシップの下では、パワーバランスは政策決定を左右しなかったと見られる。