フレームワークによる分析

一方、自社が手掛けてこなかった新しい商品やサービスを新しい市場に展開する戦略を「多角化」という。一般的に新規市場への落下傘的な展開はリスクが高く、どちらかというと失敗例のほうが多い。

残る一つ、既存商品を既存市場に向けて展開する戦略が「市場浸透」だ。既存客に既存商品を売るだけでは、競争激化を招くだけでいいことがなさそうだが、実はいくらでもやりようはある。

少々古い話だが、1979年、時計メーカーのセイコーは「なぜ、時計も着替えないの。」とコマーシャルを打った。それまで時計は一生もので、一人一個あれば十分だと考えられていたが、このコマーシャルで一人が時計を複数持つスタイルが広がり、同社は売り上げを伸ばした。既存客・既存商品でも、市場を深掘りすれば売り上げを増やすことは可能なのだ。

既存市場の深掘りとしては、ブランドロイヤルティを高めて顧客生涯価値を上げたり、プリンターメーカーがインクで稼ぐように、同じ顧客からアフターサービスやオペレーションで何度も稼ぐこともできる。これらの戦略は、新規市場の開拓や新製品の開発と違い、既存のリソースが活用できリスクも少ない。

このようにフレームワークを活用すれば、視野が広がり、顧客の奪い合い以外にもさまざまな選択肢があることがわかる。どの戦略が最適なのかはケース・バイ・ケースだが、少なくても複数の選択肢があると知ることで、「値下げして他社の客を奪うべきだ」と短絡的に飛びつくことは避けられる。

ちなみにフレームワークにもさまざまな種類があり、これさえ覚えておけば万能という類のものはない。フレームワーク自体はロジカルな思考だが、フレームワークの選び方は直感的であり、経験の蓄積がモノをいう。蓄積ができないうちは、数をこなして自分の引き出しを増やすべきだろう。

いずれにしても、ほかに道がないと思えるときほど、フレームワークなどを用いてほかに選択肢がないかどうかを冷静に検証したい。

(構成=村上 敬)