あらゆる企業にとって重要な資金調達。しかし、特に中小企業からは「支払いまでの期日が長く、融資の金利も高止まりしていて金融緩和の効果も実感できない」という声が上がる。建設業界において、こうした状況に一石を投じたのがレオパレス21だ。賃貸アパートの建築、運営などを行う同社は、事業活動の中で多くの中小企業に多様な発注を行う。そこで電子記録債権を活用し、取引先(サプライヤー)の売掛金を早期に現金化する「サプライチェーン・ファイナンス」というサービスを導入したのだ。同社の深山忠広副社長と戦略企画部長の芦村健人氏、そしてこのサービスを提供するTranzaxの小倉隆志社長に導入の意義やメリットを語ってもらった。
資金繰り面での取引先支援は他社との差別化戦略につながります
小倉隆志(おぐら・たかし)
Tranzax株式会社 代表取締役社長
野村證券でストラクチャード・ファイナンス、経営計画などに携わった後、CSK-IS執行役員などを経て、2009年7月にTranzaxを設立。

新聞記事で関心を持ちすぐに問い合わせ

【深山】当社は業務の全般的な改善を目指し、これまで多方面からIT化に力を注いできました。ハード面においては開発物件のIoT化を進め、付加価値を向上。ソフト面ではFintechの活用によって、ステークホルダーの利便性向上を目指しています。今回の「サプライチェーン・ファイナンス」の導入もその一環。各地の工務店や資材納入業者など、数百社に及ぶサプライヤーに対する資金繰りの援助になると考えました。

【小倉】「サプライチェーン・ファイナンス」では、サプライヤーが持つ売掛債権を電子記録債権化し、当社が設立したSPC(特別目的会社)へ譲渡することによって、最短で2日の現金化を実現します。建設業は就業者数がピーク時の約685万人から3割近く減少しているのに加え、利益率も製造業の平均約6%を下回る4%程度にとどまっている。そして資金繰りの面でも、慣行上120日、90日など支払いサイトが長めで、手形取引が多いのも実情です。

手形を期日前に現金化すると、当然額面から手数料と利息分が割り引かれる。大手企業であれば金利はTIBOR(東京銀行間取引金利)が基準値となって低く済むのですが、中小企業だと基準値が短期プライムレートとなり、時に金利が2%を超えてしまいます。本サービスを利用すれば、中小企業でも金利をこれまでより低い1%前後に抑えられ、なおかつスピーディーに現金化することが可能です。

サプライヤーとWin-Winの関係を築くことで信頼を強化しともに成長したい
深山忠広(みやま・ただひろ)
株式会社レオパレス21
取締役 副社長執行役員
営業総本部長
コーポレート業務推進本部長

【芦村】当社は手形決済は行わず、最長でも70日の現金払いという支払い条件で、取引先に相応の配慮をしてきました。ただ、最短2日というスピードは、人件費や資材費の出費が絶えずあるサプライヤーにとって画期的です。また、振り込みはSPCが行うため、当社側の振込手数料や事務負担の削減にもつながります。新聞記事で「サプライチェーン・ファイナンス」のことを知り、すぐTranzaxさんに連絡しました。

【深山】お話を聞いて、サプライヤーと当社の双方にプラスになる決済方法を選ぶことによって、“いっそう強固なサプライチェーンを築ける”と直感しました。導入にあたってはそれまで部署別に管理していた買掛金の一斉調査を行い、金額、支払い時期、取引先別に分類。Tranzaxさんのサポートを得ながら各部署と調整を行い、支払いサイトが長く取引量の多いところからテスト導入を実施しています。追って適用する取引先を順次広げていく予定です。

【小倉】サプライヤー側に手続きの手間はほとんどなく、インターネットバンキングの口座も不要です。そして支払い条件は向上する。人手不足の建築業界にあって、サプライヤーも支払い条件の良い取引先を選ぼうとする中、発注する側にとって本サービスの導入は大きな差別化要因になると思います。

受注段階での融資を可能にするサービスも

【芦村】これまでサプライヤーの反応も、ほとんどが好意的なものです。Tranzaxさんでは「サプライチェーン・ファイナンス」の進化形として、サプライヤーが注文を受けた段階で資金を調達できる「POファイナンス」のサービスも準備中だとお聞きしました。実は当社は、この「POファイナンス」に高い関心を持っています。

【小倉】「POファイナンス」は電子記録債権を活用して“発注書”を債権化し、サプライヤーが受注段階で金融機関から融資を受けられるようにする仕組みです。例えばレオパレス21さんのような優良企業からの発注なら、信用保証協会の保証(準備中)により、サプライヤーは発注額の50%まで融資が受けられる見込みです。融資にあたっての審査や事務のコストダウンも可能。この取り組みは中小企業の経営力強化に役立つとされ、中小企業庁が委託する次世代企業間データ連携調査事業の実証プロジェクトにも採用されました。

金融コストの削減に加えて生産性向上の効果も大きいと実感しました
芦村健人(あしむら・たけと)
株式会社レオパレス21
マーケット開発統括部
戦略企画部長

【深山】「POファイナンス」の活用によって、サプライヤーは事業活動に必要な運転資金をよりスムーズに確保することができるようになります。こうした環境の整備は、業界全体の活性化にもつながるでしょう。

【小倉】金融コストは生産性向上などに直接つながるものではないため、どんな企業もできるだけ抑えたい。昨今のFintechの伸長の原動力は、技術の活用で金融コストを少しでも削減したいという思いにあると感じます。

【芦村】今回の導入に際し、Fintechには金融コストの削減に加え、決済のペーパーレス化など生産性向上の効果も大きいと実感しました。

【深山】建設業界は地場の中小企業に支えられています。今後もサプライヤーに丁寧な説明を行いながら、互いの課題解決になる仕組みを積極的に取り入れ、Win-Winの関係を築くことによって、ともに成長していきたいと考えています。

【小倉】ビジネスを発展させるには、各種インフラの整備が必要です。当社は金融インフラの仕組みを開発、提供することで、お客様の発展を後押ししていきたいと思っています。