そのうち、おしりだけではなく、本当に腰が痛くなってきた。私はなんとか自分の腰下肢痛を治そうと、よいと勧められる治療法を片っ端から試した。整形外科だけでも数か所、鍼灸、整体、接骨院、気功……。もがけばもがくほど溺れるように、私の腰下肢痛は悪化し、会社は退職、3度の入院、最後には手術もした。でも……治らなかった。やれることは全部やったのに。

私の腰痛を改善させた「大恋愛」

これだけやって治らないのだから、私の腰下肢痛はもう一生治らないに違いない。最初に痛みを感じてから2年の月日が経ち、私は26歳になっていた。私は布団をかぶって泣くことくらいしかできなかった。しかし、人は一旦ドン底に落ちるとあとは上がるしかないのだ。まだ20代、恋愛も結婚も仕事もしたい。やっぱりいやだ。このまま治らないなんていやだ。こんな風に布団の中で泣いていてはダメだ。まずは外に出よう。なにか行動を起こそう。

『人生を変える幸せの腰痛学校』(プレジデント社刊、伊藤かよこ著)

運よく、家の近くに短時間のパートを見つけ、私は働きはじめた。痛みはあった、でも痛いままでも働くことにした。仕事をしていると気がまぎれる。痛みは薄皮をはがすように薄れていった。

働きはじめて3カ月、私には好きな人ができた。それはここに書くのも恥ずかしくなるほどの大恋愛だった。私の頭の中は、寝ても覚めても彼のことでいっぱいになっていった。
それはまるで、腰のことばかり考えていたあの頃のようだ。私の頭の中は、腰一色から彼一色に塗りかえられたのだ

そうしていつの間にか、私の腰とおしりと足の痛みは消えていた。あれだけなにをしても治らなかった腰痛が、なぜ治ったのか、当時の私にはまったく見当もつかなかった。

その後、私は鍼灸師になり、心と身体に関する専門知識を得た。その中でも最新の脳科学を学ぶうちに、どうやら、なにをやっても治らなかった私の腰痛が改善したひとつの要因はあの大恋愛だったらしい、ということがわかりはじめた。