――借金返済で苦しみぬいたのに、また5億円もかけてエロDVDを作ったこともそうですが、村西監督の生き方は常にハイリスク・ハイリターンですよね。そもそも50億円を借金しようとしても、できるものじゃない。

【村西】それもよく言われます。私みたいなタイプの人間ばかりでは世の中おかしくなるから、どうぞ真似してくださいとはいえませんが、私はビジネス投資などにはまったく興味がないんです。不動産ブローカーの知人にも言われました。めちゃくちゃ儲けていたときにビルでも建てていれば、それを担保にして次のビルを建て、また次……と、あっという間に大金持ちになれたのに、なんでやらなかったのかと。

お金を儲けたくて、商売をやっていたわけじゃないんです。私はとにかく人に感動を与えたい。それが人生の充実になると信じています。あのね、感動にはレベルもラベルもないんですよ。

――それはどういう意味でしょうか?

【村西】黒澤明監督や山田洋次監督といった素晴らしい映画監督がいらっしゃいますよね。でも私のAVによって生まれた喜びの雫を集めていったら、彼らの作品が与えた影響にも決して負けないと思っています。

「村西の作るものはエロだからダメだ」なんて言うのは評論家であって、一般のお客さまにとっては感動に貴賎などありません。どれだけ心を動かされたか、お客さまはそれだけで判断する。そういう商売がどれだけ素晴らしいかと。私はそう思っているわけなんです。

モノではなく、感動を売れ

――もともと映画監督や作家を志望していたわけではない村西監督が、なぜ人の心を動かす商売にこだわるように?

【村西】資本主義経済の基本というのは、需要の創造です。では、需要というのはいかに生まれるか? 私は昔、英語百科事典のセールスマンをしていました。そのときに同僚はよく、「生活必需品でないモノを買わせるセールスマンなんて、人間のする仕事じゃないよ」とぼやいていました。でも、私は「そんなことない」と言っていたんです。

誰もが生活に必要なモノを売るだけだったら、私たちの文明は石器時代から進歩しなかった。人生のためになる、人生が豊かになる、そういったモノを売るのがセールスマンです。要するに、セールスマンとは「豊かな生活」の需要を創造する仕事なのです。

コマーシャルでモノを売るには限界があります。最大公約数を狙った広告では情報を発信することはできますが、お客さまはそれだけで判断し、決断し、購入に至るわけではない。お客さまの性格、社会的地位、人生経験、そういったものに寄り添い、相手の価値観にフィットするかたちで提案するから、初めて人は動くのです。それができるのは、お客さまと直接対峙するセールスマンだけです。

――つまり、村西監督にとって需要の創造とは、モノを売ることではなく、いかに感動を売るか、ということを指しているのでしょうか?

【村西】その通りです。感動がなければモノも動かない、人も動かない。お金がほしい、出世したい、そういう欲だけでは人を動かすことはできません。まず自分が感動し、それを真摯にお客さまに伝えなければならない。

「どうしてAVの世界に?」と何度も聞かれてきましたが、それも同じです。AVを通じてお客さまに潤いを与え、明日も頑張ろうと思っていただきたい。私はAVで、世の中に生きがいを提供しているつもりなのです。