落合博満監督のアシスト

岩瀬が大量のセーブを積み上げることができたのは、全盛期に中日の監督を務めた落合博満のアシストがあったことはあまり知られていない。現役時代、チームの成績より自身の記録へ執着を持ち三冠王を3度獲得するなど、輝かしい球歴を持つ落合は、岩瀬にセーブがつきやすい起用を徹底した。岩瀬の場合9回の1イニングを任せられることが多かった。3点以下のリードなら1イニング投げ切ればセーブがつくが4点以上ならつかない。落合は、自チームが追加点を挙げてリード4点差になれば、岩瀬を温存し、他の選手を起用した。逆に大量リードの9回、他のリリーフ投手が打たれて「セーブがつく点差」になると岩瀬を投入した。

実際、当時の中日球団は、2、3点差リードで最終回を迎えることが非常に多く「岩瀬セーブ互助会」などと揶揄されることもあった。

決して層が厚いとはいえない球団ゆえ、強力なライバルが出現しなかったことも幸運だった。毎年のように抑え候補の外国人が来日する巨人のような球団にいたら、岩瀬の記録は達成できなかっただろう。

「米田」「金田」越えという金字塔

これから打ち立てようとしている記録で、最も偉大なのが通算登板数ではないか。岩瀬は今シーズン30試合登板し(6月23日現在)、通算登板数を934まで増やしている。現役で2位は五十嵐亮太(ソフトバンク)の737試合。約200の差をつけている。その岩瀬が、今年、歴代通算の最高登板数にたどり着こうとしている。これまでの最高記録は阪急などで活躍した米田哲也の949。2位が、あの金田正一で944。そして岩瀬は3位につけている。

米田の「949」は、王貞治の本塁打・868本、福本豊の盗塁・1065、金田の400勝などと並び「絶対破れない記録」の1つとされてきたものの1つだ。それを岩瀬がクリアしようとしている。今のままのペースなら今シーズン中に達成が見込まれる。

先発、完投が当たり前だった米田、金田と比べ、リリーフ専門の岩瀬の「登板数」はあまり評価されないかもしれない。実際、岩瀬が投げた投球回数は1000イニングに満たないが、米田、金田は、5倍以上投げている。とは言え、毎日ブルペンで肩をつくるリリーフ投手は重労働で、往々にして短命で終わることが多い。大学、社会人を経てプロに入団した遅咲きの岩瀬が、最高記録を打ち立てようとしていることは、評価されるべきではないか。