五つの複雑機構を巧みに組み込んだ、ランゲの1つのマイルストーン
「トゥールボグラフ・パーペチュアル“プール・ル・メリット”」。チェーンフュジー(鎖引き)、トゥールビヨン、クロノグラフ、スプリットセコンド、永久カレンダーを搭載。薄型化、動力効率化のため永久カレンダーをベースムーブメントに組み込んだキャリバーL133.1を新開発。●Pt。ケース径43mm。手巻き。アリゲーター・ストラップ。48万ユーロ(参考価格)。世界限定50本。10月以降発売予定〈A.ランゲ&ゾーネ〉

複雑時計を複雑につくるのはランゲにあらず

A.ランゲ&ゾーネは今年7型の新作を発表、うち5型が新型キャリバーを搭載する。一昨年に刷新した基幹キャリバーにムーンフェイズを載せたものや、10進法のソヌリなどを新たに自社開発したが、なかでも今年のハイライトとなったのが「トゥールボグラフ・パーペチュアル“プール・ル・メリット”」である。

ランゲでは、フュジーという螺旋状の部品と香箱をチェーンでつなぎ、ぜんまいのトルクを一定に保つチェーンフュジー機構を製作、その機構を持つ時計には“プール・ル・メリット(有功勲章の意)”という称号を与えている。1994年ランゲ再興後初のコレクションで第1作を発表。5作目となる今作では五つもの複雑機構を搭載するが、単にモジュールを積み重ねて厚くなり、互いに干渉するようではランゲの完璧主義に反する。そのためベースムーブメントに永久カレンダー機構を組み込んだ一体型キャリバーの開発に挑んだ。複数の複雑機構の組み合わせをより簡潔に、より効率的に製作できる力量こそが近年ランゲが表掲する「メカニカルマスター」の意味するところ。厚さ10.9ミリに抑えられた新型キャリバーが思想から技術開発力までランゲの多くを物語る。

10分ごとに美しい音色が鳴り響く、10進法のソヌリ機構を搭載
「ツァイトヴェルク・デシマルストライク」。通常のソヌリ機構は15分単位で鐘が鳴るが、ランゲ独自の瞬転式数字ディスクとの相性を考慮して、正時と正10分を二つの異なる高さの鐘の音で伝えるソヌリ機構を開発。●18Kハニーゴールド。ケース径44.2mm。手巻き。アリゲーター・ストラップ。1304万円(予価)。世界限定100本。9月以降発売予定〈A.ランゲ&ゾーネ〉
A.ランゲ&ゾーネ本社工房で完璧主義を見た
“2度組み”の理由
ドイツ東部のドレスデンは、かつてザクセン王国の都として繁栄し、現在もその名残を目にすることができる秀麗な町。そのドレスデンの近郊、喧騒とは無縁の町にあるA.ランゲ&ゾーネの時計工房を訪ねた。

“組み上げは2度とも100%”非妥協的な姿勢がランゲを築いた

(上)グラスヒュッテに立つA.ランゲ&ゾーネの工房。写真左側、格子状の窓の建物が2015年8月に竣工した新工房。お披露目の式典にはドイツのアンゲラ・メルケル現首相も姿を見せた。(中)新工房は環境に優しい地熱構造のほか、ほこりを最小限に抑える先端機器も導入されている。(下)ムーブメントの第1組み上げは、脱進機、クロノグラフ部、複雑機構部などをそれぞれの組み立て師が分業で行い、最終組み上げは複雑機構のみ専門の組み上げ師が、それ以外は第1組み上げと同様に分業で行われる。キャリバーにより調整箇所が異なるため「経験値がものをいう」という。

ドレスデンの南およそ30キロ、ドイツ時計製造の中心地であるグラスヒュッテの町中にA.ランゲ&ゾーネの時計工房が立つ。ちょうど25年前の1992年に最初の工房が操業を開始し、以後ブランドの拡大とともに工房を増設。一昨年には CO2の排出を低減する地熱構造を備えた新工房が竣工し、現在は五つの工房で約770名が時計製造にあたる。20年近く本社に勤務するPR担当のクリステン・フルチさんは「高品質・手作業にこだわり、“1モデル1ムーブメント”“伝統が見える時計づくり”を重視してきた結果」が、着実な拡大につながったと話す。

新工房の一室では彫金師たちが洋銀製のテンプ受けや4分の3プレートにエングレーブを行い、その大半が手作業なのに驚く。また別の部屋で目を引いたのがムーブメントの「2度組み」だ。これは1度組み上げたムーブメントを分解・洗浄した後、テンプ周りやネジの微調整を行い再度組み上げるもので、ランゲでは全ムーブメントでこの2度組みを行う。

「分解するからといって1度目の組み上げに手を抜くことはない。1度目で100%にしなければそれ以上の品質に到達できないから」と話すのは、熟練の女性組み立て師。彼女の言葉が嘘ではないことは、第1組み上げが完了した際に6姿勢で歩度検査を行い、それをクリアしたものでなければ最終組み上げに進めないというプロセスからも明らかだろう。「ランゲはここで働く人たちの誇り」と話す彼女たちの思いが“完璧主義のランゲ”を築き上げた。

 
ラウンド形の「1815」に搭載される手巻きキャリバー、L051.1の第1組み上げ時(左)と最終組み上げ時(右)。4分の3プレートやネジの仕上げは第1組み上げの分解後に行われる。最終組み上げが完了した後、歩度検査を経て出荷となる。