何が重要なのか……、母なりのロジックがある

物心ついた頃から母が口癖のように言っていたのは「人に感謝の気持ちを持つ」ということ。その視点は、子どものうちは、親が教えないと持てないものだったと思うので、今も感謝しています。今までの人生、いいこともたくさんあったし、いじめられたり環境になじめなかったり、イヤなこともたくさん経験しました。でも、いいことがあったとき、自分でうれしいと思うよりも、まず最初に「機会を与えてくれた人、サポートしてくれた人に感謝の気持ちを」と、母にそう言われながら育ちました。「たくさんの人に支えられているからこそ、自分は安心してこの仕事ができるんだ」ということを教えられました。

中学校の入学式。「母も発達障害なので、学生生活を楽しめなかったそう。そのときに母が大切だと感じたことを、引き継いでほしかったのでしょう。そんな母に心から感謝しています」

幼い頃、母は塾や習い事をさせませんでしたが、そのおかげで伸び伸びした学生生活を送ることができたし、母は常にハードルを低く設定してくれました。だからこそ、僕は自己肯定感を失わず、その低いハードルを飛び越えてこられたのだと思います。

発達障害の特性の一つとして、「他人にどう思われるかに関心がない」ということがあります。僕自身もそうで、良くも悪くも人の評価を全く気にしません。そのため、他人とうまく折り合うことができなかったり、迷惑をかけてしまったりすることも。それはやはり社会生活を送るうえでは問題があり、本来なら改善すべき症状です。でも裏を返せば、他人にどう思われようが気にならないので、ストレスを感じず「自分は自分!」というブレないスタンスを持つことができる。けれど、周囲の反応が気にならないので、モチベーションを高め続けるのが難しくもあります。「今の自分には何が足りなくて、具体的にどうすればよいのか」ということを自分では解決できないので、母が整理して分析してくれます。僕はのんびりしていますが、母は逆で何事に対しても積極的。そういう母がサポートしてくれているからこそ、「仕事をしていくうえでのモチベーションが保てている」のだと思います。

アメリカでの教育の必須項目として「リーダーシップのある子に育てる」という概念があります。僕はリーダーや上の立場になるのが子どもの頃から苦手でしたが、母は「イヤならリーダーにならなくてもいいけれど、人の上に立って威張ったり、指図したりするのは本当のリーダーじゃない。人をまとめたり自分よりできない人をサポートしたり、人に動いてもらうにはどうしたらいいか、どう伝えればいいかを考える人こそがリーダーなのよ」と言いました。

「リーダーシップ=人をサポートできる、そういう能力を努力して身につけてほしい」とも言われました。これも、僕の中で印象に残っている母の教えのひとつですね。母には、社会で生きていくために何が重要であるのか、自分なりのしっかりとしたロジックがあるように思います。僕はそんな母のロジックに共感するので、母の言葉はどんなときもとても大切にしています。