長期に及ぶ賃貸経営において、安定的に収益を確保しているのはどんなタイプの人なのか。20年以上にわたり、地主、不動産オーナーへのコンサルティングを行っている伊藤英昭氏に、今後の賃貸経営のポイントと合わせて聞いた。

成功しているオーナーは小さな変化を察知するモニタリングを欠かしません

伊藤英昭(いとう・ひであき)
ナレッジバンク株式会社 代表取締役
宅地建物取引士
公認 不動産コンサルティングマスター
CFP(R)認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士


税理士法人系不動産コンサルティング会社を経て、2004年にナレッジバンクを設立。「問題解決型」不動産コンサルティング会社として、不動産オーナーへのアドバイスを行う。

 

──経済や金融の情勢、人口面など、賃貸経営を取り巻く環境は、かつてとは大きく変化しています。留意すべき点はありますか。

【伊藤】経営的な視点から、どうすれば事業として成り立つのか。そのことをより真剣に考えなければならないのが今の時代です。土地を所有しているのであれば、建物を建てるのか、建てないのか。場合によって、売却して別の不動産を購入したほうがいいのか。集合住宅を建てるなら、鉄筋コンクリート造か木造か。それによって設定できる家賃が変わってくるし、投資を回収できる期間も違ってきます。

──確かに、賃貸経営、土地活用といっても、オフィス、商業施設、宿泊施設など、多様な選択肢があります。

【伊藤】戸建ての賃貸住宅を展開されているオーナーさんもいらっしゃいます。希少性を狙った戦略です。仮に同じ東京都内であっても、エリアが少し違えば入居者のニーズ、選ばれる物件は大きく異なりますから、きめ細かく見ていかなければなりません。まさに“経営戦略”によって、結果に差が付く時代といえますね。

──資産運用としての賃貸経営の特徴は、どんなところにありますか。

【伊藤】基本的なことでいえば、不動産というのは数日で資産価値が10%も20%も変化したり、急にゼロになったりすることはありません。入居者がいる間は収入を確保することができます。インカムゲインをベースに考えるなら、地価の変動もあまり関係ない。その意味では、金融商品などと比べて安定的な資産運用といえます。ただ一方で、世の中の動きにはなかなか逆らうことができない。近隣の似た物件の家賃が変われば、自分の物件だけそのままというわけにはいきません。

そして金融商品との比較でいえば、事業に直接関与できることも特徴でしょう。物件をどのように運営していくか、専門家や不動産会社からアドバイスを受けつつも、最終的には自分自身で判断し、ハンドリングすることが可能です。

10年から15年がターニングポイント

──工夫や努力しだいで収益性を高めることもできるわけですね。

【伊藤】例えば物件を誰の名義にするかで納める税金額が変わってくる場合もあります。すでに高所得を得ている方であれば、所得税は累進課税ですから名義を税率の低い配偶者や子どもにすることで節税できる可能性が高いでしょう。また法人化という手段もあります。個人の所得に課される税金は最高で55%にも上りますが、法人の場合は30%程度です。単純な比較はできませんし、必ずしも法人化が有利とはいえませんが、やり方しだいで手元に残るお金がずいぶん変わることは事実です。

──当然ながら、賃貸経営では長期的、総合的に物事を考える必要があります。

【伊藤】そうですね。これまで多くのオーナーさんを見てきて、やはり賃貸経営を始めて10年から15年くらいでターニングポイントが訪れます。建物の修繕も必要になってくるし、周辺物件も入れ替わり競争環境が変化します。また借り入れをしている場合、税制上、経費にできるのは返済額のうち金利の部分だけです。元利均等返済だと、徐々に金利部分が減っていく仕組みになっているため、同じ収入でも税負担が増えることになります。

また将来の相続を考えて、土地の評価を下げつつも、相続人の間で分けやすく、売却しやすい計画にしておくことも必要です。そういったところのシミュレーションはしっかりやっておく必要がありますね。

社風や企業理念もパートナー選びの基準に

──多くの不動産オーナーをご覧になってきて、成功している人の共通点などはありますか。

【伊藤】長い目で見ると、周囲の人を信用しているオーナーさんが、成功しているように感じます。例えば、入居者が何かトラブルを起こしたときも、「すぐに退居を」という厳しい対応を重ねていると、中長期的には部屋が埋まりにくくなってきます。その逆もしかりです。

これは、賃貸住宅の話ではありませんが、あるビルオーナーさんの対応が印象に残っています。東日本大震災の後、都内でも計画停電などがあり、飲食店も大きな打撃を受けました。そのとき、「みんな大変だから、1カ月くらい家賃を免除しよう」と言うのです。お互いの良好な関係性というのをとても大切にされているわけです。

長く賃貸経営をしていれば、建て替えなどのタイミングで、どうしても退居をお願いしなければならない場合も出てきます。そうした際も、入居者との信頼関係があるとスムーズに物事が運びますね。

──賃貸経営でも、人間関係が大事になる──。

【伊藤】はい。不動産会社や管理会社との付き合いでも同様のことがいえます。信用して任せてもらっていると感じれば、相手も親身になって応えてくれる。「ああしてくれ、こうしてくれ」と要求ばかりの人と付き合いたくないのは、どんな世界でも同じですね。

一方で成功しているオーナーさんは、モニタリングをしっかりしています。任せるところは任せつつも、きちんと不動産会社、管理会社などとコミュニケーションをとって、問題がないか確認しています。お話ししたとおり、賃貸経営では突然事態が悪化するということはあまりありません。小さな問題が積み重なって、うまくいかなくなるケースがほとんどです。振り返って、「あのとき、管理会社を見直していれば……」「あのタイミングで、リニューアルしておけば……」というパターンが多いのです。変化をいち早く察知するうえでも、こまめなモニタリングは非常に重要です。

──これから賃貸経営を始めようと考えている人へ、最後に一言お願いします。

【伊藤】不動産会社や管理会社に加え、金融機関、税理士、コンサルタントなど、パートナー選びはやはり大事なポイントとなります。各社それぞれ、商品性やサービス内容に磨きをかける中で、私自身は社風や企業理念も案外大事だと思っています。顧客とどのような姿勢で向き合おうとしているのかがそこには表れているからです。もちろん単なるお題目ではいけませんが、社としての理念がしっかり現場のスタッフにまで浸透しているか、その辺りは見極めのポイントになるでしょう。何十年にも及ぶ賃貸経営ですから、パートナーとなる事業者には、何事も自分事として面倒を見てくれる会社を選びたい。収益や利回りも大切ですが、しっかりと“人”を見て、パートナーを決めてほしいと思います。