3種類のロスタイム

このような事象は、大きく3種類のロスタイムを発生させている。

(1)上記のような会話を行っている時間
部下からすると自分が忖度した内容を説明することで自身の判断を一部でも認めてくれるのではないか、という気持ちになる。しかしながら、部下が行動した理由がどうであっても、内容がズレていれば、正当化されることはない。
(2)業務・作業を行っている時間
できあがりを見てから内容のズレを認識するため、その作業のために消費した正味活動時間はそっくりそのままロスタイムとなる。
(3)さらに忖度する時間
「そういうことじゃないよ」と言われた部下は「指示があいまいなんだよな」という気持ちを消化し、さらに忖度するため、不必要な思考時間を浪費することになる。指示内容から意図を想像し、自分なりのゴールを設定し、迷いながら業務を進めることになる。

これでは、生産性の低下は明らかだ。内容のズレを正しく認識できていなければ、いつまでも前に進むことはないといえる。

「わかってるだろう」を生む組織体質

ちなみに、忖度の横行で生産性が低い組織には、以下の特徴がみられる。

人材の流動性が低く、社員同士の付き合いが長い
→ゆえにあいまいで大丈夫というムラ社会組織
上司に「おしはかるのも能力」という感覚がある
→相互認識のズレは一方的に部下の責任だという意識
「ツーカー」であるほうが効率的という誤解
→むしろ少ない情報量で相互理解できる状態を目指している

所属組織がこのような体質、価値観になっていないか、確認してもらいたい。

回避策は「指示の明確化」

「忖度」が発生するそもそもの起点は、上司のあいまいな指示である。上司の指示があいまいだから、部下はおしはかって進める必要がでてくる。

つまり、回避策は「指示の明確化」ということになる。「指示の明確化」とは、解釈の入る余地を最小化し、共通認識をつくることだ。この際に注意すべき点は、以下のふたつの例を比べてみるとわかりやすい。

A:きちんとイスを整頓しなさい。
B:離席時はイスをデスクにしまいなさい。
A:グローバル人材を育成せよ
B:海外勤務経験が半年以上で、TOIECのスコアが800点以上のメンバーを10名輩出せよ

言うまでもなく、Bのほうが明確であり、認識のズレが生じる余地はない。