「ザ・おやじファイト」大会実行委員長の郷龍一氏(撮影=POL編集部)

ラジアントホールでリングが設営されている間、出場選手26人(この日は13試合あった)に対して、濃紺のスーツを着た長身の男性が、「ザ・おやじファイト」(以下、OFB)のルールを説明していた。大会主催者の郷龍一である。

郷の説明を聞いていると、OFBがとにかく安全重視であることがわかる。ヘッドギアの着用は必須であり、たとえ倒れなくても、頭部を強打された場合はスタンディング・ダウンを取られる。ダウンを取られた後に試合を続行するには、レフェリーの目の前で3秒間、片足で立って見せなくてはならない。郷が言う。

ゴルフやサッカーのように

「ボクシングには年齢制限(プロのライセンスは基本的に37歳で失効する)があって、それを過ぎるといくらジムで練習を継続していても成果を発表する舞台がありません。そこで、ジムで練習している30代中盤以降の人のための舞台を作ろうというのが、OFBのそもそもの始まりなのです」

年齢が高くなれば、試合のダメージが深刻な事態を招くリスクも大きくなる。参加者は元プロでもアマチュアでも、仕事を持っている人がほとんどだから、試合でけがをしてしまったら、翌日仕事に行けなくなってしまう。

「OFB独自の安全のためのルールがあるのは、どうすればゴルフやサッカーを楽しんだ後のように、『今日は楽しかったね』と笑って話しながら帰ってもらえるかを、徹底的に考えてきた結果なのです」

例えば、当初3分2ラウンドだった試合時間を、途中から2分3ラウンドに変更している。なぜかというと……。

「3分戦ってスタミナが切れてからのクリーンヒットはあまりにも危険だろうという判断があって、1試合の時間を2分に短縮したのです」

こうした濃やかな安全への配慮によって、OFBは2006年の第1回大会以降、出場選手に大きなけがを負わせたことは一度もないという。

応援のヤジでも減点

また、相手選手へのリスペクトとフェアな判定も重視しており、「殺せ」「つぶせ」などといった汚いヤジをセコンドだけでなく、応援者が飛ばしただけで減点の対象になる。ボクシングの世界では初めてとなる、ビデオ判定も導入した。

「試合を楽しんでもらうためには、『あの判定はないよなー』ということを無くしたい。納得して帰っていただきたいので、微妙な判定はビデオで確認するのです」

聞けば、郷のもうひとつの仕事は医療系ライターだという。まっとうな医療知識を備えた主催者による、フェアな試合運営。OFBはとかく野蛮なイメージがつきまとうボクシングを、安全でクリーンなスポーツにしていくことによって、草の根のボクシングファンを増やすことに貢献しているのだ。