「先が見えない。地獄のような日々だった」

<strong>玉田弘文</strong>●1971年生まれ。95年大阪経済大学卒業。三洋証券(97年経営破綻)より98年に入社。2006年9月より現職。トップセールスマンとして後輩の指導にもあたる。「ITバブルも経験しましたが、さすがに今回の衝撃は桁外れでした」。
玉田弘文●1971年生まれ。95年大阪経済大学卒業。三洋証券(97年経営破綻)より98年に入社。2006年9月より現職。トップセールスマンとして後輩の指導にもあたる。「ITバブルも経験しましたが、さすがに今回の衝撃は桁外れでした」。

いちよし証券高田支店(奈良県)の資産アドバイザー・玉田弘文は半年前をそう振り返る。

リーマンショック後の株価の急落。玉田は「もう止まるだろう。もう止まるだろう……」と願うような気持ちでモニターを見つめていたが、そんな思いをよそに、株価は下落を続けた。回復の気配は一向にない。一体、どこまで下がるのか――。

いちよし証券では優秀な社員を半年ごとに表彰している。全国約120人の課長職から選ばれるのは約8人。玉田は4期連続で名を連ねている。玉田の担当する顧客は約300人。預かり資産は約40億円に達する。

一般的に顧客が投資を決断する決め手は、「商品の質、サービスの質、アドバイザーの質」の3つだという。しかし、玉田は続けて、こういい切った。

「商品やサービスの質について現場で競うのは難しい。でも、アドバイザーの質ならば実力勝負にもちこめます。金融商品にリスクはつきもの。取引は一発勝負ではないので、一度の失敗で終わらない信頼関係を築くのが何よりも大切なんです。信頼関係があれば、大手よりうちを選んでもらえる。私は、信頼度と販売額は、比例すると考えています」

売ってなんぼの攻め一辺倒の営業では、顧客との関係を長く続けることはできない。玉田はかねてから、営業先では聞き役に徹してきた。商品の案内は後回し。何よりも人間関係を築くことを目指す。取引に関係がないと思われるちょっとした話題にも、顧客の個性やニーズが隠されているのだという。そんな玉田がもっとも重視しているのが、相場が悪い時期の訪問営業である。

「損失を被ったお客さまのもとに伺うわけですから、勇気が要ります。怒られたこともありますよ。でも、信頼を勝ち取るには、ピンチのときこそ逃げずに対応しなければなりません」

リーマンショックの後、玉田の頭をよぎったのは、自分を信用して取引を続けてくれる顧客の顔だった。

「我々がパニックになったらダメだ。現状を説明して、お客さまの不安をほぐしにいこう」