海外に出る気なし。地元で技術を磨く

実際にとても整理整頓が行き届いた工場内だったのが印象的でした。そして改めて「今後も海外を拠点にする気はないのか」と清川社長に訊ねました。

「行きません。海外でやるなら同じ投資を地元でやります。海外でグローバル展開すれば、過度な価格競争に巻き込まれる。価格競争に巻き込まれない最先端の技術を開発し続けて、ここ福井で生き残るつもりです」

自ら出なくても世界中のお客が向こうからくる、という自信に裏付けられた方針なのでしょう。

同社では製造用ラインの機械も自社で設計しています。それも当然。どこにも出来ないものをつくるための機械は、売っていないからです。また、工場でめっき工程を見せてもらっても、20μmの材料に5μmのめっきをしているのだから、何をしているのか全く見えません。それがナノめっきの驚くべき世界です。

「めっきの技術自体は、実は古代からあった技術。古代エジプト文明に見られる金を施した像などは、水銀の中に金を溶かしたものをめっきしたものなんですよ。そして、塗ってから松明などを炊くと、水銀が溶けて金が残る。この技術をギリシャ語でアマルガムというのですが、奈良の大仏もほぼ同じ技術です。つまり、“滅して金が残る”から“滅金”、めっきん、めっき、と言われるようになったらしいです。だけど、水銀を使うわけですから、揮発した水銀を吸い込む可能性がある、とても危険な作業です。それで、ガスマスクが開発されたという記述が昔の書物に残っているのですが、それでも相当、身体がおかしくなった方がいたはず。でも、そういう話は歴史に残らないんですよね」

古代まで遡ることができるめっき技術が、長い時を経た現代に至っても、進化し続けている技術である点にロマンを感じる話です。

清川メッキ工業は「めっきとは、人を、ものを、活き活きとさせるもの」と主張しています。しかし、辞書にはそう書かれていません。「表面だけ飾り、中身を偽ること」という意味と「めっきが剥げる」というマイナスの表現が説明されています。版元に用語説明の修正や加筆を要望しましたが、「現実に使われている意味は修正出来ない」という返事だそうです。

素晴らしい技術と開発努力の結晶であるめっきの説明が、辞書に載る日がいつかくるようにと願っています。

編集部より:
「発掘!中小企業の星」は、成長を続ける優良企業を取り上げて、その強さの秘密を各界の識者が解説する、雑誌『PRESIDENT』の連載記事です。現在発売中の『PRESIDENT6.12号』では、女性に大人気の雑貨店「中川政七商店」を紹介しています。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。また、プレジデントオンラインでは本連載で紹介する、注目の中小企業を募集しています。詳しくは本記事の1ページ目をご覧ください。
(構成=中沢明子 撮影=水野浩志)
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