塵にもめっきが可能な、ミクロン単位の技術

知らぬ者はいない世界的大企業の数々がナノめっきで頼りにする「清川メッキ工業」で話を聞くと、私たちが「めっき」という言葉から連想するイメージと全く異なる世界があることに驚かされます。私たち素人にとってめっきとは、見た目を装飾したり、錆を防止したりする機能を思いつく程度ですが、最先端のナノめっきはまるで別世界です。

<現代社会に欠かせない機能めっきの恩恵>スマホをはじめとする電子機器に欠かせない機能めっき。表面を硬くする、光を反射する、電気を流す、熱特性を持たせるなどさまざまな機能を付与する。めっきのサイズも年々小さく進化。

必ずしも「ナノ」(10億分の1)の単位ではなく、「マイクロ」(ミクロン、100万分の1)もありますが、前述のようなエレクトロニクス商品の各種部品にめっきをするのが同社の仕事の中心。各種部品を接着し保護する機能、つまり接着剤や「半田」の役割を担うめっきです。清川肇代表取締役社長はこう言います。

「例えば、ダイヤモンド工具でいいますと、20μm(ミクロン)のダイヤモンド粒子に0.1μmのめっきを施します。ちなみに、人間の髪の毛の太さは50~100μmです。さすがに空気にはめっきできませんが、わが社では5μmくらいの塵にまで、めっきができます」

清川メッキの仕事はあまりに細かすぎて、社長自身も自社の製品がどの商品に使われているか、見てもはっきりとはわからないそうです。

「クライアントは部品の使用箇所を弊社に教える義務などないですから、本当によく知らないのです。ただ、昔は機械を分解すればわかりました。というのは、昔の部品は今よりずっと大きかったから、企業のマークやナンバリングを認識できた。思い返すと、20年くらい前までは、なんとか見分けがつきました。今はすべてが小さくなって、バラしてもほとんどわかりません」

主要取引先企業を考えれば、おそらくスマートフォンの要部分に使われているのは間違いなさそうです。そして、清川メッキ工業なくして、スマートフォンがここまで我々の生活に身近な電化製品になりえただろうか、と思うエピソードがあります。

「スマートフォンの部品に限りませんが、年間にすると、数百億個近い数の部品にめっきをして、“市場不良品は限りなくゼロ”だと思います。不良品があれば、クライアントから必ず苦情がくるはずだからです。おかげさまで苦情はありません。こういう業種はなかなかお褒めの言葉はいただけないのですが、クレームはしっかりくるんですね。だから、苦情をいただかず、何に使われているかもよく知らずにいられるのは良いことなんです。そんな状態のほうが良いなんて、少し変わった仕事かもしれませんね(笑)」

つまり、開発技術が優れているだけでなく、億単位の納品でも一つの不良品も出さないほど正確な仕事を請け負う企業なのです。