僕が書類を見るときに、何を一番重視するかというと、いわゆる「デリバラビリティ(deliverability)」と呼ばれるものです。要は、書いてあることがその通りにできるのか、ということ。一つの稟議書が上がってきたとします。そこにはビジネスの枠組みやメリット、収益性などが書かれているわけですが、それだけでは起案者本人がただ風呂敷を広げているだけかもしれません。作りの凝った資料には往々にしてそういう傾向がある。だから字面だけ見て、いいねとはならないわけです。そこにどのようなリスクがあるのか、計画からの下振れが見込まれるときは、最大損失額はいくらなのか。予測しない事態が起きたとき、どういう対応をするのかといったことも、記されていなければならない。

一方で、メリットはどこまで拡大する可能性があるのか、どこまで利益を最大化できるのかについても記されているべきです。その両面が記されてあれば、起案に具現性、実現性を感じます。

しかし大切なのはそこから先です。起案した人間がどのような実績を重ねてきた者か、その部署の責任者に達成能力があるか。あるいはそのチームは必要なネットワークを構築できていて、案件を達成する実力値があるのかというところまで測る。それが経営トップの資料の見方なのです。

資料作りに時間を割くなといっても、資料がいらないと言っているのではない。商社の仕事では、パートナーほか多くの人と情報を共有して進めなくてはなりません。そのための資料は必須です。また稟議とはその案件を良質化するプロセスですから、コンセプトをみんなで共有し、整理、精査していくためのベースとしても資料は必要です。

ただ一口に書類といっても、目的や用途によって違います。ほぼ案件がまとまっていて、あとは社外取締役や株主に説明をするための資料は丁寧でわかりやすいものがいいし、これで契約が成立するというときの書類は、一つずつ慎重に交渉内容を積み上げて慎重に文書を作成していくことになります。しかし稟議のベースになるものや報告書の類は、なるべく手間をかけないのがいい。