国内に目を向けると、昨今ではJリーグが海外進出を考えている日本企業のビジネスを後押ししている。Jリーグが2012年ごろから積極的に推進している、「アジア戦略」という言葉を聞いたことはないだろうか? Jリーグではアジア各国に対して、競技の強化・育成、リーグ・クラブの運営などのノウハウを無償で提供し、アジア地域におけるスポーツ振興の後押しをしている。

国家ブランドの構築にスポーツを

Jリーグ国際部長を務め、アジア戦略をゼロから構築してきた山下修作氏は、このように話す。

「アジアサッカーの特徴として、皇太子や元首相の息子、財閥のトップといった大富豪がリーグの運営やクラブを所有しています。彼らはあれだけ弱かった日本がなぜここまで強くなったのか、積極的に学びたいと考えています。ビジネスの商談では会うのは難しい方々であっても、“サッカー”というキーワードがあれば会えてしまう。この人脈をサッカー界だけにとどめておくのはもったいないと考え、無償でノウハウを提供する代わりに、海外進出を考えている日本企業や自治体に現地の有力企業を紹介してもらうようにしているのです」

こうした取り組みもあり、2014年に経団連が公表した「国家ブランドの構築に向けた提言」の中に、「(国際的なビジネス展開を進める上で)アジア地域への協力により影響力を強めているJリーグの積極的な活用も考えられる」と記載された。山下氏はこう続ける。

「企業や自治体が海外へ進出するにあたって、スポーツがその窓口になれると経団連も認めたわけです。Jリーグ・クラブのスポンサー企業が海外進出で利益を生み出し、スポンサー料の増額や新規契約につながれば、Jリーグ全体にとってもメリットがあります。Jリーグを通じて地域とアジアがつながれば、地域経済の活性化に貢献することもできるのです」

「スポーツで稼ぐ」ことの極意

まだまだ少数かもしれないが、日本でもスポンサーシップをうまく活用している企業は間違いなく増えている。筆者が構成に携わった書籍『プロスポーツビジネス 私たちの成功事例』(東邦出版)では、ここで紹介した秦氏、山下氏の話だけではなく、スポンサーシップの具体的な事例も掲載されている。

『プロスポーツビジネス 私たちの成功事例』東邦出版 (編集)

日本コカ・コーラはいかにしてオリンピックやFIFA(国際サッカー連盟)とのスポンサーシップをマーケティングに活用しているのか。JTBグループはどのようにして国家的な課題である地方創生やインバウンド拡大に国際スポーツイベントを絡ませているのか。一般的にB to B企業はスポーツスポンサーシップと親和性が低いといわれているにもかかわらず、SAPはなぜスポーツ産業へと参入したのか。

その答えに、「スポーツで稼ぐ」ことの極意がある。スポンサーシップを通じて企業とスポーツがお互いの価値を上げていく関係を築くことで、スポーツ産業が自立的に循環していく収益化の基盤を実現させることができるだろう。その先には、日本政府が目指す国家経済の成長のみならず、スポーツが国民の生活の一部となる豊かな社会の構築につながっていくに違いない。

野口学
フリーライター・エディター。約10年にわたり経営コンサルティング業界に従事した後、スポーツの世界へ。月刊「サッカーマガジンZONE」編集者を経て、現在は主にスポーツビジネスについて取材・執筆を続ける。『スポーツの持つチカラでより多くの人がより幸せになれる世の中に』を理念として、スポーツの“価値”を高めるため、ライター/編集者の枠にとらわれずに活動中。
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