「必ず80点を取るが、100点以上はない」。花王は、そんな堅実な企業だった。だが今度の新商品「デオドラントZ」は違う。なぜそこまで攻めるのか。その背景には、2030年までに売上高を1.7倍、規模で世界3位(現在は7位)を目指すという「K20計画」があった――。経済ノンフィクション「企業の活路 花王」。前編( http://president.jp/articles/-/22241 )につづき、後編をお届けする。

女性向け市場は縮小していた

花王のなかでも、「花形」と言える部署がある。商品づくりの司令塔になるのが「事業ユニット」だ。スキンケア事業グループの一つ、ビオレグループでブランドマネジャーを務める小林恵美さんは、その仕事内容を解説する。

花王スキンケア事業グループブランドマネジャー 小林恵美氏

「ブランドやカテゴリーをゼロから生み出して、育てるのが仕事です。仕事は大きく分けて3つ。商品づくりと、広告、そして販売戦略づくりです。全体を見ながら、設計図を描くんです」(小林さん)

まさに花王の中枢を担うマーケティング、販売戦略の部署だ。

小林さんがデオドラントZの企画をスタートさせたのは、15年はじめ。入社後、ビオレやアジエンス、ソフィーナなどビューティケア分野で20年以上経験を積んできた小林さんから見ても、「稀なケース」だったという。

「『デオドラント剤の市場を取りにいこう』が出発点だったんです」

通常、花王の商品の開発は顧客のニーズを汲み取って、市場に何が求められているかを考えて行う。しかし、先行して発売する国内の状況は決して楽観できるものではなかったという。

「デオドラント剤の分野で花王はまったくの後発。しかも、国内市場は飽和しているどころか、女性向けの市場は縮小していました。でも、今回は海外事業強化にあたり、デオドラントのカテゴリーを強化したいという会社としての戦略がありましたので、攻めようと思ったんです」

消費行動はまだ落ち着いていない

シービックが販売する直接塗布のデオドラント剤「デオナチュレ」が爆発的に売れたのは09年。昨年はライオンが「Ban」を大幅リニューアル。全国の小売店の一等地を席巻していた。そんな国内のシェアを取りにいく、そして海外でも勝負できるものをつくる。

「市場のデータも取りましたが、実際にデオドラント剤を使っている人に聞き取り調査をすると、多くの人が次々と使う商品を変えていた。ニオイを気にする人の消費行動が、まだ落ち着いてないのではと考えたんです。それならデータ上は飽和した市場でも、新しい価値を提案できればまだチャンスはあるだろうと」

研究所が開発した、汗の量が多くても臭い防止が効き続ける新技術を生かして商品化することにした。

「今回は、定量より定性の、一人の人への深いインタビューを重視しました」(小林さん)

そうしてつくられたデオドラントZの広告・販売戦略では、エリアやチェーンごとの細かな施策も積み重ねた。たとえば、近畿大学の駅前看板。「汗かく近大生。たくさん汗かいても大丈夫」というメッセージは、近大生だけをターゲットにしたニッチなものだ。