データが語る文系学部の位置

大学教育の効果を理解する図式から説明すれば、私たちはこれまでその鍵が「学び習慣仮説」にあることを指摘してきた。大学時代の積極的な学習経験は、本人の知識能力の向上や成長体験をもたらす。その蓄積と体験が、現在に必要な知識能力を向上させ、その結果が仕事の業績、ひいては所得に反映される――これが学び習慣仮説の図式である。

すでに大卒調査の分析から確認されたものとしてさまざまなところで提示してきたが、文系-理系間の違いがみえてきたことも、またひとつの事実だった。要点を2つに分けて説明しよう(※2)

※2:ここで用いているデータは、工学系、経済学系ともに、地方の総合国立大学卒業生に対して実施した質問紙調査で収集されたものである。実施年は工学系2004年、経済学系2009年、回答数(回収率)は、工学系976(35.5%)、経済学系596(21.9%)だった。

「ガリ勉」ほど卒業後の所得がマイナス

まず、図1をみてもらいたい。これは、理系(工学系)と文系(経済学系)それぞれの分析結果をイメージ化したものである。「大卒時知識能力→現在知識能力→所得」と続くプラスの関係が、学び習慣仮説の強調する経路(パス)になるが、第1の点として注目したいのは、「大卒時知識能力」と「所得」のあいだにひかれているパスだ。経済学系にはマイナス効果が認められ、すなわち、大学時代に学習を積んだ者ほど、低く評価されてしまうことを意味している。総体的にみれば、それ以上に強い学び習慣のプラス効果ゆえに、大学での学習に意味はあるという結論が導かれる。けれども同時に、就職してからなんらかの理由で学習をやめた者にとっては、マイナスの効果だけが残る。「大学時代の余計な知識は邪魔だ」と言われかねないのが、経済学系の世界なのである。

次いで第2に指摘しておきたいのが、キャリア段階による効果の違いについてである。図2は、図1と同様の分析をキャリア段階別に行った結果だが、「大卒時知識能力→所得」のマイナス効果が、シニア期ではみられなくなっている。加えて、「大卒時知識能力→現在知識能力」とのあいだのパス、「現在知識能力→所得」のあいだのパスが、経済学系では強化されるという結果も抽出された。

考えてみれば、工学系出身者と経済学出身者とでは、そのキャリアのありように大きな違いがある。工学系出身者ほど、専門との関わりがみえやすい仕事に従事する傾向が強い。だとすれば、以上の結果は、工学系卒業生ほど有益な学び習慣を続けやすく、逆に経済学系の場合は、仮に学習経験を積んでいたとしても、就業後にあるべき学びへとたどり着くまで時間を要することを示唆しているのではないか。また、キャリア後半で担う仕事においてこそ、文系の素養が活きてくるという可能性もある。