長く住み続けている我が家も、そろそろメンテナンスが必要な時期……。そう感じたら、住まいと暮らしを考え直すチャンスだ。一級建築士のYuuさんに、リフォームのコツを聞いた。

見えない部分で経年劣化は起きている

戸建てであれ、マンションであれ、長く快適に暮らし続けていくには、メンテナンスが必要となる。外壁の塗り直しや老朽化した配水管の更新など、重要なのはわかっていても、費用や手間を考えると工事にはつい腰が重くなりがち。しかしリフォームに詳しい一級建築士のYuuさんは「適切な時期にリフォームしたほうが、結果的には経済的です」と助言する。

住宅や住宅設備にはそれぞれ、メーカーが定めたメンテナンスサイクルがある。例えばシロアリ対策の工事は5年おき、外壁塗装や屋根の葺き替え、キッチン、浴室の交換なども10~20年単位で点検や交換が必要になる。目に見える不具合がないからといってこれらのメンテナンスを怠っているのは危険だ。

「住まいや住宅設備の寿命は、その時期を超えると製品性能が急速に劣化し、故障や事故のリスクが高まる目安と考えてください。寿命を超えた設備は、一見問題がなくても経年劣化は確実に起きています。放置していると、予期せぬ時に壊れたり、構造の腐食など思いがけない被害を招くことになりかねません。悪化する前なら、軽度の出費で済んだのに、一度だめにしてしまうと元通りにするための費用は甚大となります。こと住まいのリフォームに関しては、中長期の費用対効果で考えるべきです。今はお金がかかったとしても、先手を打って工事しておいたほうが安心・快適な暮らしが得られて、しかもトータルコストも安くつきます」

また、最新の製品を取り入れておけば、次のメンテナンスまでのサイクルを長くすることもできる。

「例えば、従来の外壁であればおよそ10年単位で塗り直す必要がありますが、最新の外壁塗料にはメンテナンスサイクルが20年という製品も登場しています。施工時は値が張ると感じるかもしれませんが、その後のコストが軽減しますし、年を取ってから再び外壁塗装を手配する手間がないのは魅力です。せっかく手をかけるんですから、単なる修繕に終わらず、先々まで価値を感じられる工事を選んでほしいですね」

「家」と「人」のサイクルが重なるタイミングで

Yuuさん
一級建築士事務所 OfficeYuu 代表
住宅リフォームコンサルタント
本名は尾間紫(おま・ゆかり)。一級建築士、インテリアプランナー、インテリアコーディネーターなどの資格を持ち、多様な住宅リフォームやインテリアの相談、プラン設計、工事に関わる。業者選びからプランの立て方までを各種メディアで発信している。

計画的にリフォームを行うには、どの点に注意すべきか。Yuuさんは「家のライフサイクルと人のライフサイクル、二つが重なる時期にリフォームすると無駄がありません」と話す。

「住まいのサイクルは10年単位で考えます。10年で外壁や屋根の手入れ、給湯器交換などの小規模なメンテナンスを行い、20年で間取り変更といった大規模なリフォームを実施していくイメージです。そこで暮らす家族も、20年も経過すれば結婚や出産、子どもの独立や退職など大きなライフイベントが起きているもの。人生の節目に合わせて家を見直すと、計画を立てやすくなります」

例えば38歳で新築の家を購入したとすれば、20年後の58歳は大規模リフォームのタイミングだ。子どもが成人して独立する時期であり、会社員であれば、定年退職が見えてくる年齢でもある。その時期であれば古くなった設備の修繕をするだけでなく、子ども部屋を活用できるよう間取りを変えておいたり、介護に備えて危険な段差を減らしておくなど、その時々にふさわしい家づくりを考えられる。

「住宅設備や工法は目覚ましい勢いで進化し、住まいの改善は20年前に比べてかなりハードルが低くなっています。かつては手が届かなかった先進の設備をリーズナブルな価格で取り付けられたり、これまではなかった新工法のおかげでかつては難しかった設置条件などもクリアできるようになっています。築数十年の住まいでも、今のリフォームなら快適性や安全性を高めることが十分に可能です」

わかりやすいのが省エネ性能だ。熱の出入りが大きい窓や玄関といった開口部は、住まいの中でも外気の影響を受けやすく、しかも断熱性能は低かった部分。近年はその改善に注目が集まり、短時間で断熱性に優れた窓やドアと交換できるようになっている。

「窓のほかに壁や屋根、床下にも断熱加工を施すといっそう省エネ効果がアップします。省エネ性能の向上は見た目は地味ですが、住まいの快適性を格段に向上させてくれます。また、夏は日射熱対策も重要で、窓の外側に日よけシェードを取り付けるだけでも効果が出ます」

時代の変化に合わせて住まいをアップデート

そして「家全体の気密性を高めるときは、空気の健康にも気を使ってください」とYuuさんはアドバイスする。

「室内の空気は、建材などから発生する化学物質やカビなどで汚染され、それによる健康への影響も指摘されています。2003年以降に建てられた住宅には24時間換気システムの導入が義務づけられていますが、省エネや音の問題で夜間に換気を切ってしまう人も。換気は常時行って、空気清浄機もまわしておくといいでしょう」

加えて、時代とともに変化する生活スタイルへの対応もリフォームの役割とYuuさんは考える。

「例えばコンセントの位置や数。家を建てた当時は想定しなかったほど家電が増え、特にスマートフォンの普及によっていつでも気軽に充電したいという人が増えています。となれば、家庭内のコンセントも便利な位置にあったほうがいい。新築住宅では、スマホ充電に対応したコンセント設置は当たり前。もしもこれから壁紙交換や断熱工事を行うなら、併せてコンセントを増設しておくと便利になります」

住宅建設は大がかりな投資となるため、一度建てるとそう見直す機会は訪れない。そんな中でリフォームは、住まいを今の時代に合わせて進化させるまたとないチャンスといえる。

「リフォームは現状維持のコストではなく、理想の暮らし方を手に入れるための未来への“投資”。そう意識を変えて、前向きに取り組んでほしいと思います」