ハーレーが日本で売れている理由

最近の日本における文化開発の成功事例として、アメリカの高級大型オートバイの販売会社であるハーレーダビッドソンジャパン(以下、HDJ)のケースが挙げられます。日本のオートバイ市場は、80年代前半をピークに、ずっと右肩下がりの状態が続いています。その中で、ハーレーの国内販売台数は右肩上がりで増えています。それは、同社が「ハーレーがある魅力的な暮らし」という文化をつくることに成功したからです。

ハーレーの魅力は物理的性能よりも、独特の美しいデザインにあります。その価値をきちんと来店者に伝えるため、街中によくあるバイクショップが店内にぎっしりとバイクを並べているのに対して、ハーレーの販売店では、通路を広く取り、展示車両の間も広く取って、1台ごとの美しさが映えるようにしてあります。また、「ハーレーオーナーズグループ」というユーザーのコミュニティを組織し、ツーリングやイベントなど、仲間と一緒に楽しめるようなサポートも行っています。

実際にバイクに乗るライダーだけでなく、その家族や社会から見ても親しみやすい商品に変える取り組みもしてきました。例えば、購入の決定権を握る奥さんを店舗に連れてきても共感が得られるように、ベビーカーを押しながらでも見ることができるようにし、スタッフも油の染みた作業服ではなく、清潔な服装で紳士的に対応します。また、ハーレーが反社会的なイメージで見られないように、アメリカ本社と交渉し、日本向けのハーレーは日本の厳しい騒音基準に対応した設計にさせ、販売店に対しても、純正のマフラーをつけたバイク以外は整備しないという方針を徹底させました。さらに、ハーレーのような大型バイクが顧客にとってより魅力的になるために障害となっている規制を緩和させるため、大型バイクの免許を教習所で取得できるようにする、高速道路でのバイクの2人乗りができるようにするといったことについて、在日米大使館に対して、アメリカ国務省から日本政府への働きかけを要請しました。その結果、これらの規制は順次緩和されました。

商品の価値は商品単独ではなく、社会的文脈によって決定されます。そのことを踏まえた社会全体のライフスタイルを構想し、展開していったことが、HDJの躍進につながりました。

かつて、千利休が茶室・茶道具というハードと、それらを使いこなすソフトの両方を統合・デザインしたように、企業には「家元」的な存在となり、文化を広めていくことが求められます。

(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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