「根回しの岡光っちゃん」

今、小池百合子東京都知事によって、「ドン」という存在そのものがクローズアップされ、根回しや水面下でのやり取りが強い批判を呼んでいる。しかし、大きな改革をするのに、根回しは不可欠なのである。

逮捕された岡光氏は、根回し上手と言われていた。岡光氏は、「介護保険制度」という現在の日本社会の根幹を支えるシステムをまとめあげた人物の一人である。世界がこの「介護保険制度」を賞賛する現実を見ても、どれほど先進的な制度設計だったかがよくわかる。

岡光氏は自著『官僚転落』でこう述べている。

「私のことをかつて別名『根回しの岡光っちゃん』と周りではいっていたらしい。私自身そういわれていたこと自体に異論を唱えるつもりはない。実際、かつて根回しで霞が関を奔走していたのは事実である。根回しをするということは、つまり『それでどうするんだ』『こういう方法があるんじゃないか』『それはまずい』『それでもいい』『いいのだったら、具体化するにはどうしたらいいのか』といった議論を展開していくということである。根回しを実のあるものにするためには、理性のある対話をする技術と冷静な知識が必要であるということであろう」

マスコミや「現代的」とされる政治家は、根回しについてブラックボックスと批判をする。そして、ガラス張りの政治が大切だと繰り返し主張する。しかし、議論のすべてをガラス張りにしては、実のある議論などできるはずがない。オープンに議論したほうがいい場合もあり、根回しをきちんとしなくてはいけない場合もある。根回しが必要なときに活躍するのが「議会のドン」であり、「官僚のドン」だ。やはり、私は厚生官僚を守り抜く必要があると確信した。

小泉純一郎厚生大臣(当時)は96年12月16日、以下のような処分を発表した。

「彩(あや)福祉グループ」代表の小山博史容疑者から現金百万円を受け取った和田勝・前審議官(官房付)を懲戒免職処分。「医療福祉研究会」の幹事だった吉武民樹・薬務局企画課長ら8人を減給処分。羽毛田信吾・老人保健福祉局長ら2人を戒告処分。小泉厚生大臣、山口剛彦事務次官の2人は監督責任を取る形で自主的に給与を一部返納。

大臣自らも道義的責任をとる傍ら、厚生省の幹部16人に対し、厳しい処分を行ったのだ。