「インドでは日本のトヨタくらい、うちのクルマが走っています」。アジアの雄・インドをがっちり押さえているスズキ。コンパクトカー「新型スイフト」は、前モデルから120kg減量(!)、世界中で売るための仕掛けが施されたという、地味にスゴイクルマなのである。どうすごいのか、浜松まで話を聞きに行ってみたところ……。
スズキ「スイフト」HYBRID RS
■新型スイフトの気になるポイント
・前モデルのスイフトより120kg軽量化
・新プラットフォーム「ハーテクト」とは?
・インドを始め、新興国マーケットの星
・「世界のベーシックカー」としての環境性能
・日本向けにはマイルドハイブリッドを搭載

「地味な話ばっかりなんですが、大丈夫でしょうか」

「120kgって、一体どうやって軽量化したんです?」という問いに、浜松のスズキ本社で会ったチーフエンジニアの小堀昌雄氏は、開口一番「これと言って、派手な何かがあるわけではないのです。地味な話ばっかりなんですが、大丈夫でしょうか?」と苦笑いした。小堀氏の名刺には、「四輪商品第二部 チーフエンジニア 課長」と書かれている。新型スイフトのまとめ役である。

2016年12月にスズキが発表した新型スイフトは、前モデルから120kgもの軽量化を果たした。小堀氏は「地味」と謙遜(?)するが、このクラスの小型車が120kgも軽量化するのは、トランプ大統領と金正恩総書記が互いを「兄弟」と呼び合ってハグするくらいの大事件である。

クルマを軽量化することで、燃費はどの程度変わるのか? エンジンの効率やタイヤの転がり抵抗などの技術は日々進歩しているし、複数の条件が複雑に関連してくるので単純化した数字は挙げにくいが、過去のクルマを統計的に研究したデータを当たると※、おおよそ重量10kgあたり0.5%程度の向上が見られる。つまり計算上、120kg軽量化したクルマは燃費が約6%(!)改善することになる。もともと燃費の良い小型車から絞り出す数値としては極めて大きい。しかも軽量化の効果は燃費向上に止まらない。「走る、曲がる、止まる」の全てに効果があるのだ。

※[参考]
・車体軽量化に関わる構造技術、構造材料に関する課題と開発指針の検討 http://www.nedo.go.jp/content/100751047.pdf
・クルマの燃費 http://www.asahi-net.or.jp/~zs2t-ikhr/article/nenpi1.htm
・重い分だけ燃費は低下? http://www002.upp.so-net.ne.jp/norris/S/weight.html

他社エンジニアも仰天する「マイナス120kg」

他社のライバル車と重量を比較してみれば、スイフトの重量がどれだけ驚きの数字なのかがよく分かる。抜き出したのはどの車種もカタログ掲載中の最軽量モデルだ。

・スイフト(スズキ) 840kg
・マーチ(日産) 940kg
・ヴィッツ(トヨタ) 970kg
・フィット(ホンダ) 970kg
・デミオ(マツダ) 1010kg

スイフトは最軽量のマーチより100kg、最も重いデミオとの比較なら170kgも軽い。そのマーチとデミオの重量差は70kgにすぎない。スイフトは群を抜いて軽い。国交省の基準値では人間ひとりは55kgで計算することになっているので、人間2~3人分は軽くなっている計算になる。4人乗車から人を3人下ろしたら、クルマの動きの全てが変わるのは運転経験のある人なら誰もが分かるだろう。

この軽量化に驚いているのは筆者だけではない。ヴィッツの試乗会でトヨタのエンジニアに話したら「120kgですか!」と言った後、絶句した。プロにとっても驚くべき軽量化なのだ。とにかく異常なことが起きている。なぜそんな異常なことをやり遂げたのか、それをやらねばならなかった背景と、その手法について明らかにしていきたい。