臨機応変な判断が問われる江戸川競艇場での試練

以後、比良野さんは20年以上のキャリアを歩んできたが、そのなかで大きな転機となったのは98年、現在の東京・江戸川競艇場に審判員として異動したときだったという。

全国に24場ある競艇場の中で、同競艇場はレースが河川内で行われる唯一の場所だ。開催中にタンカーや工事船が通過することもあるし、風向きや川の流れにも影響を受ける。

「常に天候を見ながら水面の状況を監視して、舟券の締め切りを延ばすことは日常茶飯事。レスキュー艇などで『波消し』をするかを判断する力も、江戸川の審判員には求められるんです」

(左上から時計回りに)現場に下りて水面のチェックとともに、選手やボートの様子もチェック。/レースが始まる前に作業をしながらパパッとランチ。/レース中は、監視席に座って細かくチェック。/比良野さんのデスクは、レースが真下に見下ろせる位置。

江戸川競艇場では水面の動きを深く理解しながら、雨雲や風向きに意識を払って早めに様々な判断を下さなければならない。この競艇場での仕事に、彼女は醍醐味(だいごみ)を感じた。

「江戸川は複雑な分だけやりがいがあります。ここでの経験は大きな自信につながりました」

以後、彼女は3年間の審判員を務めた後、平和島と江戸川を異動しながら、副審判長や審判長といった役職に就いていくことになる。現在は江戸川で検査員のトップである競技長を務めるが、それらはいずれも女性として初めての立場だった。

「最初の頃、一生懸命に仕事をしていると自分では思っていても、『女だから』の一言で済まされてしまうときもありました。でも、いまは女性の実務者も全国で増え、それが当たり前の職場の風景になりつつあります」

だからこそ、「第1世代」の自分が、女性初の競技長としてしっかりと役割を果たさなければならない。彼女はいま、改めて気を引き締めている。

(上)多摩川競艇場の競技長を務める夫とはなかなか休みの日が合わないが、合うときには親族一緒に旅行を楽しむことが多い。(下)愛犬のパグ1匹。すぐ近くの実家でも2匹飼っており、一緒に散歩に行くこともある。日々の癒やしとなっている。

▼比良野さんの24時間に密着!

5:00~5:30 起床
5:30~6:00 犬の散歩
6:00~7:00 犬の世話、弁当作り、夕食準備
7:00~8:00 夫見送り、身支度
8:00~8:30 出社
8:30~9:00 点呼
9:00~9:30 執行会議
9:30~10:00 水面監視
10:30~11:00 昼食
11:00~17:00 レース開始/競技の監視、情報の入力、事故などへの対応
17:00~18:00 退社
18:00~18:30 犬の散歩
18:30~23:30 晩酌をしながら夕食
23:30~05:00 就寝

 

撮影=村山嘉昭 Hair&Make-up=YOSHIE