【塩田】安倍政権が掲げる「アベノミクス」と4年余の経済運営をどう見ていますか。

【山口】アベノミクスはうまくいっている部分も、道半ばの部分もあると思います。安倍政権は発足時から、経済面ではデフレ脱却と経済再生を掲げてきましたが、有効求人倍率の上昇、失業率の大幅低下など、雇用が拡大し、賃金も4年連続でベースアップが続いています。着実に成果を上げていますが、企業の収益が十分に家計や地方に行き渡っていないところがあります。「3本の矢」の3本目の成長政策は構造改革といわれるところで、社会や経済の仕組み、構造を変えて新しい効果をつくり出していくことで、時間もかかります。狙いどおりいかない部分もありますが、好循環が生まれるように努力を続けるべきです。

【塩田】経済政策と経済運営で公明党が果たした役割は。

【山口】賃金上昇でいうと、これまでは労使交渉に委ねて政府は介入しないのが大原則でしたが、企業と労働側の話し合いの基盤が変化していますから、「政・労・使」の三者で協議して合意を、と強調し、地方でも「政・労・使」の地方版を、と言ってきました。

与野党合意の反故は信頼を損なう

【塩田】安倍政権では、野田佳彦内閣での「3党合意」(当時の民主党・自民党・公明党の合意)に基づいて一度、8%への消費税増税を実施しましたが、10%への引き上げは2回延期しました。19年10月に増税実施の予定ですが、この問題をどうお考えていますか。

【山口】3党合意は、社会保障の将来を考え、長期的視野に立って決断をしました。そのときはデフレ社会が前提で、増税が経済にどんな影響を与え、どう作用するか、思いが十分でなかったように思います。実際に8%を実施して、予想外に影響が大きかった。アベノミクスで伸び始めていた経済の勢いが落ち込むという大きな反省があり、10%は思い留まった。経済の体力を付けてからというのが政権の決断で、それでよかったと思います。

国民のみなさんには増税に抵抗があります。公明党は10%実施の際は軽減税率の導入を強く主張し、実行の合意をつくり出しました。財務省には反対意見もありましたが、税制法案にも書き込んで準備しているところです。10%実施の場合は、あらかじめ使い道を一部、決めてあります。アベノミクスによる税収の伸びを生かして、無年金者の救済も実行する。10%の場合、税収の使い道が少し変化するわけですから、増税は社会保障と軽減税率の関係を整理し、消費税の位置づけをきちんと説明した上で実施すべきです。

【塩田】安倍内閣は10%実施を2回も延期しました。3回目も無理で、10%への増税は最終的に中止となるのでは、と見る人もいます。

【山口】安倍首相はそうは言っていません。長い目で見て社会保障の安定につながる。公明党もやるべきだと思っています。そのために、経済に対するマイナスの影響も和らげ、消費意欲を殺がないという効果がある軽減税率制度をつくり上げた。ずっと好景気が続くとは限りませんから、社会保障が行き詰まります。国民の負担が急に増えるのは誰も望んでいません。アベノミクスの好循環が進んでいく側面を見逃してはならないと思います。

【塩田】次の19年10月を前にもう一回、増税実施を延期する事態もあり得ますか。

【山口】よほどのことがなければ、延期すべきではない。政治の決定は政治の信頼にも結びついています。与野党を含めて広く合意した決定を反故にするのは信頼を損なう。実施のための条件、実施の理由と意義をきちんと説明して実行すべきだと思います。

山口那津男(やまぐち・なつお)
公明党代表
1952(昭和27)年7月、茨城県那珂郡那珂湊町(現在のひたちなか市)で生まれ、日立市で育った(64歳)。父は日立市天気相談所長、母は小学校教員。茨城県立水戸第一高、東京大学法学部卒。79年に司法試験に合格し、82年に東京弁護士会に弁護士登録。88年に日本弁護士連合会に出向する。90年2月の総選挙に旧東京10区から公明党公認で出馬して当選(以後、衆議院議員2期)。94年12月、公明党解党で新進党の結党に参加する。96年10月と2000年6月の総選挙で連続落選し、5年のブランクを経て01年7月の参院選で東京都選挙区(当時は定数4)から公明党公認で出馬して当選し、政界復帰を遂げた(現在、参議院議員当選3回)。04年に公明党参議院政策審議会長、08年に党政務調査会長に。09年9月、総選挙で落選した太田昭宏代表(後に国土交通相)の後任の代表となる(現在、5期目)。趣味は音楽鑑賞とカラオケ。中学時代はトロンボーンの奏者。1女2男の父。
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