平賀はプロダクトデザイナーとしてコニカミノルタの前身である小西六写真工業に入社し、以来、コンパクトカメラの傑作といわれる「BiG mini」やオフィス機器などのデザインを手がけてきた。現在は、デザイナー集団を束ねるセンター長の立場にある。

「プロダクトデザインというのは、かつては機械の外側をきれいに包むことができればそれでよしという世界でした。これは大前さんの言葉でいう『旧大陸』の発想です。しかしメカニズムのデジタル化が進んだいまは、極端にいうと機械本体は薄い基盤上の電子回路だけで成り立っています。すると、そういうなかでデザイナーに求められる仕事とは、最後に外側をデザインするだけではなく、それをどのように使うのかといった企画の段階から関与していくことにまで広がってきています。そんな変化に加え最近では、これからの世界、大前流の言葉でいう『見えない大陸』で生きていくときの考え方を強く意識するようになりました」

優秀なスペシャリストであり、将来を嘱望された幹部候補でもある。大前経営塾の受講者には、年々、平賀のようなタイプの人が増えているという。背景にあるのは、日本の大企業におけるキャリアパスの変化である。

将来の社長候補には必ず経営企画部や秘書部門を経験させ、そこにおいて歴代経営者の薫陶を受けさせる。かつての日本企業には、そんな暗黙のルールが存在した。しかしグローバル化の到来とともに、企業における出世ルートも多様化し、所属部門の主流・非主流、あるいは男性・女性を問わず、さまざまな経歴を持つ経営幹部が登用されるようになった。

この人たちの多くは現場の第一線で多忙な日々を送っている。本社スタッフと比べれば、経営トップと親しく接する機会は少ないだろう。しかし、取締役や執行役員を目指すには、それにふさわしいスケールの世界観や思想を身につけていなければならない。

では、誰が彼らにそういった「帝王学」を授けるのか。答えのひとつが、大前経営塾だったのだ。

大前経営塾の講師陣には、大前をはじめ大物経済人や専門家がずらりと名を連ねる。経済人を例にとれば、京セラ創業者で日本航空会長の稲盛和夫やリクルート創業者の江副浩正、若手では南場智子ディー・エヌ・エー社長などの実力者がそろう。

稲盛や江副は「現代の経営戦略」や「経営者講義」といった録画講義に登場し、国内外の経済や企業経営について、最新データや経験をもとに塾生たちへ語りかける。このことが彼らに「経営者視点」を植え付けていくのである。

運営面では、インターネットやビデオ教材を活用するなど遠隔授業を基本とするのが大前経営塾の特徴だ。各種教材を携帯情報端末にダウンロードし、通勤電車などで学習することも可能である。そのため、平賀のように多忙な人も通勤時などの隙間時間を学習に活用することができるのである。

年2回、4月と10月に開講し、卒業までの期間は1年間。卒業時には4000字の小論文提出が課される。大前を慕って私費で入塾する人も多いが、最近は平賀のような企業派遣組が増えているという。(文中敬称略)

(増田安寿、熊谷武二=撮影)