アマゾンが思い描く未来

筆者がもっとも強く感じたのは、アマゾンはこのビジネスモデルを小売店舗への活用だけにとどめずに、広く工場、倉庫、ホテル、オフィス等のワークプレイス、さらには街全体のエコシステムにまで浸透させていこうとしているのではないかということであった。

アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾスは、「シックスシグマ」のような精緻な経営管理や膨大に蓄積されたビッグデータ分析などロジカルな経営で有名な創業者である。その一方で、ベゾスは、未来志向や創造力に長けた人物でもあり、特に未来をリアルに現実として鮮明にイメージすることで事業展開を行ってきたことでも知られている。書籍から事業をスタートさせたのも、インターネット通販で最初に定着する商品と仕組みをリアルかつ鮮明にイメージしたことがきっかけだった。

そのベゾスに対して筆者が注目してきたのは、「街創りとはトップダウンで計画的に実行するだけではなく、そこに住む人がもっと楽しくワクワクするようなものであるべき」という発言である。アマゾン・エコーは、人と人とのコミュニケーションの中核は話すことであるという本質を捉えたことが成功要因となっている。ベゾスは明確にスマートシティーのような街創りにまで事業展開を志向していること、そしてそれは人々が楽しくワクワクするようなものでないと決して広がらないと認識しているのだ。

筆者が考える「アマゾンが思い描く未来」には、以下のようなものが指摘できる。アマゾン・エコーやアマゾン・アレクサ、そしてアマゾンの包括的なエコシステムが、自宅、小売店舗、工場、倉庫、ホテル、オフィス、さらには街全体のプラットフォームとなること。そして、そのプラットフォームを通じて膨大なビッグデータを集積しビジネス展開していること。すでに「世界の小売業ランキング2017」でトップ10にランクインしている小売業においてもマーケットリーダーとなること。

サービス提供者側の論理だけにとどまらず本当に消費者に対して楽しくワクワクするような経験価値を提供することができたなら、人間の本能的な動きや欲望を忠実に製品化できたなら、アマゾンの思い描く未来の実現可能性は高まっていくのではないだろうか。スマートホーム、スマートカー、スマートオフィス、さらにはスマートシティーが実現していくなかで自分や自分の会社はどのような立場でそれらに取り組んでいくべきなのか。ただ単にアマゾンを傍観していてはならないと思うのは筆者だけではあるまい。

田中道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
http://www.rikkyo.ac.jp/sindaigakuin/bizsite/professor/
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