トヨタ自動車のロボット事業がいよいよ動き出す。2007年からロボットの研究開発に着手し、10年かけて初めて実用化にこぎつけた。下肢麻痺の人の歩行リハビリを支援するロボットを国内の医療機関にレンタル販売する。

本格的に動き出したロボット事業のゆくえ

「トヨタ自動車は事業領域の拡大で、将来社名からモーター(自動車)という言葉がなくなる日が来るかもしれない。クルマが進化していけば、モーターではなく、モビリティという表現がいいのではないだろうか」

歩行リハビリテーションを支援するロボット「ウェルウォークWW-1000」。

今から10年ほど前、当時社長を務めていた渡辺捷昭氏とロボット事業について話していたら、渡辺氏の口からこんな言葉が出てきたことがあった。それはトヨタが「パートナーロボット」構想を発表した後で、渡辺氏は会見で、「将来、ロボット事業をトヨタの中核事業に育てる。2010年代のなるべく早い時期に実用化を目指す」と熱く話していた。

そのロボット事業がいよいよ本格的に動き出すことになった。2017年9月から下肢麻痺の人の歩行リハビリテーションを支援するロボット「ウェルウォークWW-1000」を国内で医療機関などにレンタル販売する。

このロボットは歩行ベルトやモーターがついたロボット脚、モニターなどがセットになっていて、膝の曲げ伸ばしを補助しながら動くベルトの上を歩き、前方のモニターで姿勢を確認しながら歩く練習をするというものだ。

トヨタは07年末から藤田保健衛生大学(愛知県豊明市)と共同でこのロボットの開発に着手。11年から医療現場で実証実験を重ねてきた。現在、全国23の医療機関に研究目的で導入されており、これまで300人を超える患者が利用してきた。同大学の才藤栄一教授によると、比較的症状が重い患者が歩けるようになるまでのリハビリ期間は平均3カ月だが、このロボットを使うと1.6倍早くなったという。

16年11月に国から医療機器としての承認を得て、今回のレンタル販売につなげたわけだが、価格は初期費用が100万円で、レンタル費用が月額35万円。5月から受注を開始し、3年で100台規模の販売を計画している。当面は国内のみだが、海外展開も図っていく計画だ。

「すべての人が移動を楽しんでもらうには、こういった役割のものが将来必要になる。今は事業ありきではないが、必ず事業に結びつくものだと考えてやっていきたい」と磯部利行常務役員は話す。

高齢化が進み、クルマの運転が難しくなる人が増えるなか、トヨタが掲げる「モビリティ・フォー・オール(すべての人に移動の自由を提供する)」を実現するには、中核事業のクルマだけでなく、社会の変化とともにパートナーロボット事業にも注力すべきだというわけだ。