旅行に関して最も多かったのは「滅多に里帰りをしなかった」という後悔だ。なかでも共通して聞かれたのは、「両親のお墓参りがしたい、という声がとても多い」こと。地方から大都市に出てきて家庭を築き、仕事の忙しさにかまけて長く故郷に帰らなかった人は多い。そして晩年を迎え、ベッドから起き上がれなくなってから、「先祖のお墓参りぐらい行っておけばよかった」と後悔するのだ。

一方、仕事については最期までこだわりを持つ人が多い。職場に戻りたいと切望する人もいる。ホスピス医である小澤竹俊氏のもとで緩和ケアを受けていた50代の男性は、非常に優秀なエンジニアだった。だが肺がんが脳に転移して、到底職場復帰は望めない体だった。しかし傷病手当を受けながら会社に席を残してあることもあり、彼は余計に復職できない悔しさがあったのだろう。「自信家で仕事の鬼のような方。無念さを感じます」(小澤氏)。

仕事熱心な人ほど、自身のアイデンティティを仕事や職場に求める。そんな人に限って職場以外の人間関係は希薄な傾向がある。在職中は肩書のおかげで慕ってくれた部下や取引先も、退職してみれば潮が引くように去っていくのが世の常。「元の自分はこんなにもタダの人だったのか」と愕然とするのだ。

死ぬ間際によくある後悔【旅行・仕事編】

●両親の墓に手を合わせたい
――故郷から気持ちも時空も遠く離れても、望郷の念にかられることがある。

●「オリンピック」に行きたい
――五輪ではなく、スーパーの「オリンピック」。もはや自分で買い物することさえ叶わない。

●最期に海を見たい
――マリンスポーツを愛好した人がつぶやいた。潮風を感じるだけでも満ち足りた気持ちになれるという。

●仕事を辞めるんじゃなかった。病気に向き合うばかりじゃ息が詰まる
――がん治療に専念しようと会社を辞めたのは間違いだった。今思うと、時短勤務もできたかもしれないのに。

●早く職場に戻りたい
――情熱的に仕事に打ち込んでいた日々が自分の絶頂期だった。輝いていたあのときの自分を取り戻したいと願う気持ちは強い。

●仕事を辞めたら、タダの人だった
――役員時代はおだててくれる部下もいたが、退職した途端、スーッと周囲から人がいなくなった。

ホスピス医 小澤竹俊
1963年生まれ。東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2006年めぐみ在宅クリニック開院。著書に『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』ほか。
 
(篠原沙織=撮影)
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