必ず起きる「患者激増」と「医師不足」

首都圏の病院が経営難に陥る一方で、これから患者は激増する。

図1は、関東地方の75歳以上の人口を2015年と2025年で比較したものだ。医療ガバナンス研究所の研究員である樋口朝霞氏が、国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来人口推計のデータを利用して作成した。

(図1)関東地方の75歳以上人口の2015年と2025年の比較

この図を見ると、関東地方で急速に高齢化が進むことがわかる。特に、首都圏の高齢化は著しい。大部分の地域で、わずか10年間の間に後期高齢者が3割以上も増加する。

患者は増えるのに、彼らが頼る病院は倒産の瀬戸際にある。

首都圏が抱える問題は、病院の経営難だけではない。経営難はあくまで金の問題だ。診療報酬体系の規制緩和などで、対応できる側面もある。深刻なのは、首都圏で医師が不足していることだ。医師の養成には時間がかかる。早急に対応しないと手遅れになる。

読者の多くは「東京には医者が多いので、埼玉県、千葉県、神奈川県で多少不足しても問題ない」とお考えかもしれないが、この考えは間違っている。首都圏では医師の絶対数が足りないからだ。人口10万人あたりの医師数は230人にすぎない。四国は278人、九州北部は287人だ。実に2割以上の差がある。

(図2)人口10万人あたりの地方別医師数 平成24年医師・歯科医師・薬剤師調査より

さらに、首都圏は医師の偏在が著しい。人口10万人あたりの医師数は東京都314人に対し、埼玉県155人、千葉県179人、神奈川県202人だ。東京だけは医師が多いが、他の3県は南米や中東並みの数字だ。

首都圏は広い。全ての患者が東京の病院を受診できるわけではない。

このため、現在でも首都圏では救急車のたらい回しなどが頻発している。2013年3月には、埼玉県久喜市で救急車を呼んだ75才の男性が、県内外の25病院から合計36回、受け入れを断られ、最終的には県外の病院で死亡した事件があった。これも氷山の一角だ。

今後、状況は益々悪化する。図3は首都圏の75才人口1000人あたりの60歳以下の医師数の推移だ。情報工学を専門とする井元清哉教授(東大医科研)との共同研究である。

(図3)75才人口1000人あたりの60才以下の医師数

団塊世代が亡くなる2035年ころに一時的に状況は改善するが、その後団塊ジュニア世代が高齢化するため、再び医療ニーズは高まる。多くの県で、2050年の高齢者人口当たりの医師数は、現在の3分の2程度になる。そのころの東京の状況は、現在の千葉県や埼玉県とあまり変わらない。