ランドセル商戦のピークは7~9月

【丹羽】そうなのですか!? 確かによくある話ではありますが、新設されたことからすると販社の方々は新規採用された方が多いのですか?

【泉】取引先の卸売業者様から採用した社員を中心に、現在では20名ほどの組織になっています。この組織自体も中途採用の社員が多いこともあり、生産現場とのコミュニケーションに加え、中の意思疎通も確立されているとは言えないです。

【丹羽】どのあたりに原因がありそうですか?

【泉】「部分最適」になってしまっていると考えています。つまり、皆が自分のことしか考えていない、ということです。販社のセールスは売り場から商品が欠品したらリテール様に叱られますので、年間の特に商戦のピーク(7月~9月)までは、セールスからの納期に対するプレッシャーはものすごく強い反面、いざ商戦が過ぎて1年間終わった後は、売れ残りが積み上がっていてもセールスはなんとも思っていないというのが実情です。「仕方がない」と。

【丹羽】欠品しないことが最優先になっているので、たくさん抱えておきたいわけですね。

【泉】その方が納期遅れでリテール様に叱られることがありませんから、安心できるわけです。販社側から、そのプレッシャーを受ける製造現場は「じゃあ在庫を持とう」ということになり、結果として作りすぎてしまう。

【丹羽】製造側の人たちの一番の関心事はなんでしょうか?

【泉】そうですね。やはり「昔のやり方の方が良い」という感覚は残っているのではないでしょうか。大量生産の時代であれば、材料の発注も今よりもっと大量発注で、その分在庫の山で欠品リスクはなかったはずですが、僕が「5S」を導入して、それは全て止めさせました。確かに飲料などと異なり、材料の品質的な使用期限は長いわけですが、現在の最終お客様は、例えば1年2年落ちの古いランドセルが店頭で売られているのを見れば「このランドセルは売れ残り」とすぐにわかってしまいます。

※5S……整理(Seiri)・整頓(Seiton)・清掃(Seisou)・清潔(Seiketu)・躾(Situke)のこと

製造現場のモチベーションを上げるには?

【丹羽】では、製造現場の「モチベーション」とは何になるでしょうか? 職人的なものづくりの楽しさといったことになりますか。

【泉】うーん、まさにその部分の定義が会社としてできていないと考えています。もちろん、「子どもたちの笑顔のため」というモチベーションはあると思うのですが、いざ製造ラインに入れば、自分に割り当てられた作業をどうこなすか、という思考のみになってしまいます。まさに部分最適で、販売まで含めた全体像を踏まえたモチベーションというのはなかなか難しい課題です。自分の周りに仕掛品が積み上がっていても、気にする様子がない社員がまだまだ存在します。この部分が改善されないと、全体のスループットが上がらないと思っています。

ランドセルを製造する工場の様子。

【丹羽】お話を伺っていると、製造と販売の間のコミュニケーションだけでなく、それぞれの部門・部署の中でのコミュニケーションも「部分最適」に陥ってしまっているということですね。そういったコミュニケーションを「つなぐ・取り持つ」機能を持つ担当部門はないのですか?

【泉】セイバンには生産管理部があり、毎週の生産計画や、物流計画は出してもらっています。セイバンマーケティングについても、主要リテール様の販売状況を、SKU(Stock Keeping Unit、在庫管理を行う単位)ごとに毎週セイバンへレポートするようにしています。昨年からようやく取り組み始めましたが、まだうまく機能しているとは言えない状況です。これらの情報をこまめに速く流すのがサプライチェーンマネジメントの基本ではありますが、以前は年間中途の販売状況は全く収集されておらず、生産指示も完全見込みで1カ月毎でしか出せていませんでした。今後は販売状況がめまぐるしく変化していく中で、タイムリーに需要を的確に把握し生産計画をこまめに変更する。すなわちリードタイムを短縮することが重要課題になってきます。もともと90日だった生産期間も、いま60日まで短縮し、今年は30日にしようとしています。

【丹羽】スピード感のある意思決定と生産・供給のためにより細かい単位で情報は集めるようにされているということですね。そういったデータを元にしたコミュニケーションはうまく図れそうなのでしょうか?

【泉】これは当社に限ったことではないと思うのですが、各部門でなかなか他の部門に言いにくい課題があったりします。それを吐き出す会議を私主導で開いています。「何が出てきても私は怒らないから」と前置きをした上で(笑)。

【丹羽】なるほど、それはとても良い取り組みですね。泉社長としては、そこに関わる人たちがどのような状況になると望ましいと思われますか?

【泉】やはり、困っている人・部署があれば、部門の垣根を越えて皆で助けにいく、そんな組織を目指したいです。

【丹羽】ただ部署・個人の単位で見たときの困りごとと、サプライチェーン・会社の単位で見たときのそれは異なっているわけですよね。

【泉】そうです。なので、私はその会議でも「セイバン全体として困るというのはどういうことなのか」という点を繰り返し確認しています。例えば、欠品はセールスにとっては困りますが、会社視点で考えたとき、欠品が生じて潰れた会社は聞いたことがありませんが、在庫を抱えすぎて潰れた会社は世の中に山ほどあるわけです。

【丹羽】その通りですね(笑)。しかし現場はなかなか自分の問題として認識をしていない……。

【泉】そうなのです。