いつの時代も「お値打ち」に応えてきた

久しぶりにスガキヤのラーメンを食べた人は、「昔から変わらない味」と感じる人も多い。出張時に時々利用する筆者もその1人だ。だが実は、舌の肥えた現代の消費者に「変わらない」と思われる味を提供することはむずかしい。終戦の翌年である1946年に創業し、48年からメニューにラーメンが加わったスガキヤは、以後70年近く、ラーメンを提供してきた。少し引いた視点で考えれば、終戦直後、高度成長期、80年代や90年代、そして21世紀の現代で、まったく同じ味はありえないのだ。菅木氏はこんな言い方で説明する。

「いかに、いろいろな材料を少しずつ変えて『昔ながらの味』と思われるか。お客様のイメージから、できるだけ乖離(かいり)しないようにするのが、私たちの使命です」

この使命は、名古屋人が好きなお値打ち価格に対してもそうだという。

2017年に実施された「スーちゃん祭」のポスター。

「店のメニューの原材料は長期トレンドで値上がり傾向が続いています。たとえば魚介ベースのスープの原料である海産物の仕入れ価格は上がっていますし、野菜サラダの野菜も天候不順が続くと高騰し、仕入れ値に影響します。できるだけ企業努力で吸収していますが、やむを得ず価格改定で対応する場合もあります。でもお客様のスガキヤの価格に対するイメージはできるだけ守り続けたいと思っています」

そんなスガキヤの店が最もにぎわうのは、年に1度の「スーちゃん祭」だ。定番商品やセットが半額になるもので、今年は3月4日と5日の土日に開催された。2日間限定だが、もともと安い定番の「ラーメン」(320円)が160円、「ラーメンサラダセット」(630円)が320円、「ソフトクリーム」(150円)が70円になるなど破格値で提供された。2日間で約40万人のお客でにぎわったという。

なかなか収入が伸びない時代の昼食時や小腹を満たしたい時に、通常でも全麺類がワンコイン(500円玉)でお釣りがくるスガキヤは、昔も今も庶民の味方だ。当連載への反響として「自分の子供時代は180円(200円)だった」や「明日食べに行こう」といった声が多かったことも紹介しておきたい。

高井尚之 (たかい・なおゆき)経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。これ以外に『カフェと日本人』(講談社)、『「解」は己の中にあり』(講談社)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)、『なぜ「高くても売れる」のか』(文藝春秋)、『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『花王「百年・愚直」のものづくり』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。
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