関東地方に約150店舗を構える食生活提案型スーパーのヤオコー。流通業界の中でも特にスーパーマーケットは経営が厳しい業態と言われるが、その中でいかに成長を続け、他のスーパーと差別化していくべきか? 27期連続増収増益を達成した川野澄人社長に、医学博士の石川善樹さんが訊ねた。

→ストレスに負けず、心身共に健康でいるコツ~ヤオコー川野澄人社長×石川善樹氏【前編】 http://president.jp/articles/-/21904

スーパーでは中長期の取り組みが大切

【石川】短期的に結果を出すためにすることと、中長期的に継続的な成長をしていくためにすることは、何が違いますか。

【川野】我々は食に携わる仕事ですが、毎日の食事が急に大きく変わるということはないと思っています。ただ、着実にお客さんのライフスタイルは変わってきています。たとえば今まで家庭では食べなかったお惣菜が、テーブルに並ぶようになる。果物にしても、剥きやすい果物やカットフルーツが売れるなど、ゆっくりとした変化は起こっています。

ですから、長期的な変化を把握して、世の中がどう動き、消費者のライフスタイルがどう変わり、我々としてはどう対応していくかを考えなければ、気付いた時には遅くなるという危機意識は持っています。我々の売り上げは急激に落ち込むことはありませんが、気づかないうちにお客さんの生活と離れていくということがあります。そうなってしまうと、急に回復するのは難しいので、必然的に長期的な視点で物事を捉えることが増えています。

【石川】ファッションのように、毎シーズンごとにトレンドが入れ替わるのとは違うということですか。

【川野】そういう短期的な要素もあります。季節ごとの流行を考えれば、アサイーやチアシードなど栄養価の高い「スーパーフード」を取り入れなければなりません。一方、長期的な視点で考えれば、今後高齢化が進み、医療費が上がるのは避けられないのので、健康意識はますます重要になってくる。そのような状況に対して何ができるかと考えたら、我々の商売を通じて健康作りに少しでも貢献しなければならない、そういう視点です。ただし、お客さまに「これが身体にいいですよ」と言うだけですぐに行動が変わるものではありませんから、長期的な視点を持ち、地道に浸透させていこうと思っています。

社員が健康でないと、健康な食生活を提案できない

【川野】そのためには、まず社員が健康でなければお客さまに健康をお伝えすることもできないし、提案もできません。社員の健康を考えようと初めに取り組んだのは、健康診断の受診率を上げ、身体の状態を把握することでした。今はほぼ100%の社員が健康診断を受けるようになっています。なかには、健康診断に引っ掛かっても放ったらかしにしている社員もいるので、保健師さんがお節介屋さんになって電話をかけたりしています。

健康診断に引っかかるような状態になるのは、普段の生活習慣に原因があることが多い。そのため、少しでもいい習慣が身に付くきっかけになればと、体操を始めたわけです(参照:「ストレスに負けず、心身共に健康でいるコツ」 http://president.jp/articles/-/21988。そのほか、石川先生のアドバイスをもとに、水分をきちんと摂取できるよう、いくつかのお店には社員用のウォーターサーバーを置き、作業の合間に水を飲めるような取り組みも試しています。そのほか健康を害する原因として考えられるのは、食事の仕方ですよね。今、手を付けているのは、タニタ食堂などを見習って、社員食堂でもより栄養バランスを考えた食事を取れるようにすることです。社員の意識が高まり、食生活が変わることが、お客さんへの提案にもつながると考えています。これも中長期の取り組みと言えると思います。