埼玉を中心に、関東地方に約150店舗を構える食生活提案型スーパーマーケットのヤオコー。代表取締役社長の川野澄人さんは37歳の若さで家業を継ぎ、プレッシャーの中で27期連続増収増益を達成した。社長という仕事は、大きな判断を迫られることが多い。激務の中で、ストレスに負けず、心身ともに健康でいるコツとは何か? 医学博士の石川善樹さんが「ストレスに勝つ脳習慣」を訊いた。

習慣化するために、ジムには曜日を決めて行く

【石川】川野さんと初めてお会いしたのは多分2年ぐらい前ですよね。その時に、「すっ」と佇まいがとてもキレイな方だなと思ったんです。何か具体的にやっていらっしゃることはありますか? たとえばジムに行くとか。

【川野】そうですね、ジムに行っています。もう7~8年はやっていますかね。長くは続けていますけど、週1回だったり2回だったり、無理せずというか。石川さんがよくおっしゃるように、習慣になるように、ジムに行く日は運動着を入れたバッグを持って出勤して、そのまま帰りに寄るようにしています。一回家に帰ってから行こうとしても、また家から出る気にならないと思うので(笑)。ジムに行くのは月曜ですが、この日は結構会議が集中しているので、夜に会食が入ったりということがない。ですので月曜日の夜は必ず行くことにしています。

【石川】7~8年も続けてみると、それをすることで頭がすっきりしたりとか、筋トレ中に何かふっと思いついたりすることはありますか。

【川野】思いつくというのはないですが、その時は本当に集中していますから、もやもやしたものは一回忘れるというのはありますね。

埼玉県を中心に、関東地方に展開するスーパーマーケット「ヤオコー」。http://www.yaoko-net.com/

「ヤオコー体操」を始めた理由

【石川】川野さんの会社は、どうしても職業柄、食べなければいけないことが多いので、メタボの人が普通の会社よりは多いのではないかと思いますが、どうでしょう。

【川野】お店の社員は店舗内をすごく歩くので、太っている社員はそれほどいませんが、お店から本部に来てバイヤーなどの仕事をするようになると、そこまで動かなくなり、食べる量も増えるので、みなさん太る傾向にありますね。だから、みんなもう少し身体に気をつけないとまずいな、運動する習慣を会社でも広められたらなと思って、石川先生にご相談しました。以前も朝礼の時に体操をやってはいましたが、いわゆる普通の準備運動に近いものでした。もっと社員に効果的な身体の動かし方はないかと米大リーグ・元ドジャースでトレーナー研修をされていた友広隆行さんを紹介していただいて、お店での動作を見ていただきました。結果、肩まわりを使ったり、腰に負担が大きかったりすることが分かり、それに合わせたストレッチを考えていただき、2016年4月から、全社で朝礼の時に「ヤオコー体操」というオリジナルの体操をはじめました。

【石川】一見すると今の時代に体操はあまり即していないのではないかという考えもあると思います。どのようにご自身の中で位置付けられていますか?

【川野】まず、何よりも健康に対する意識を高めることが大切です。次に、石川さんに教えていただいたことですが、「大事なのは運動と栄養と休養だ」と感じています。しかし、栄養のために「この食べ物がいい、あの食べ物は減らせ」とみんなに言ったところで……。

【石川】やってもらえないですよね。

【川野】ええ、会社の指示でできることではありません。だからまず運動からはじめて、少しでも体調がよくなった、という実感を得てもらおうと思いました。正しい体の動かし方をすれば身体への負荷も少なくなり、運動効果も高いということを、働いている社員やパートナーさん(パート社員)みんなに感じてもらいたかった。健康のためにフィットネスクラブに行って軽めの運動をするという方が、特に女性には多いと思いますが、うちで働くとフィットネスクラブに行くのと同じような効果があって、給料も出る。そのような感覚で働いてもらえたら、健康に対して意識が上がるし、体調も良くなるのではないかと考え、ヤオコー体操を始めたのです。

我々の商売はお店で身体を動かす。それに、見てきれいという視覚、美味しそうという匂いや味覚、店内に流れる音楽は何かという聴覚……と五感をフル活用するので、身体すべてを使っていることになります。身体を使うというのは非常に楽しい仕事ですよね。元々私は銀行にいたわけですが、ヤオコーで働き出してからそう感じました。