宅配ボックス業界ナンバー・ワンの思惑

マスコミによる「ライオンズマイボックス」報道ではほとんど大京の名しか紹介されていないが、この新型宅配ボックスには共同開発者がいる。宅配ボックス大手の株式会社フルタイムシステムだ。

聞いたことない会社だと思うかもしれないが、「世界で一番最初に宅配ボックスを発明・開発・販売」(フルタイムシステムホームページより)したパイオニア的存在で、業界ではその名が轟いているのだ。

同社が管理している宅配ボックスは26万ボックス(2017年4月時点)で、「新築分譲マンション向けで国内シェア6割を握る」(日経産業新聞 4/6)という実績を誇る。そのため、「宅配クライシス」が叫ばれてからは、不動産デベロッパーにとどまらずさまざまな大手企業とのコラボレーションをおこなっている。たとえば、日本郵便株式会社とは「ゆうパック」の無人の受取りがおこなえる屋外宅配ボックス「はこぽす」を共同開発。すでに首都圏を中心とした郵便局など40カ所以上で設置が始まっているのだ。

そんなフルタイムシステムには、戸建用宅配ボックスと、賃貸マンション用の後付け宅配ボックス「チャレンジボックス」というラインナップもある。もうおわかりだろう、パナソニックの既存商品や新商品ともろにバッティングしているのだ。

10倍の販売台数をぶち上げたことはもちろんだが、「宅配ボックスといえばパナソニック」という報道が、フルタイムシステムのPRマインドに火をつけた、というのは容易に想像できよう。つまり、「パイオニア」としてパナソニック推しのムードに黙っていられなくなったのではないのか。事実、フルタイムシステムはこの4月にメディア露出が急増している。大京と「ライオンズマイボックス」を発表する5日前には、「日本経済新聞」に以下のような露出があった。

「三井不動産レジデンシャルは宅配ボックス大手のフルタイムシステム(東京・千代田区)と連携し、マンション1棟あたりの宅配ボックスの数を増やす」(4/5)

また、大京の発表の2日後にはNTT西日本のグループ企業2社と協業して、宅配ボックスと集合住宅向けのインターネット接続サービスの一体での提供を始める、というリリースを出し、こちらも記事化されている。

フルタイムシステムの原幸一郎代表取締役は、かつてマンション管理業をしていたという。そこで、管理事務所で預かっていたゴルフバックが盗まれてしまうトラブルが発生。その時の苦い経験から、配送物を安全に保管するシステムが必要だと思い立ち、1985年に宅配ボックスを開発したという。

そんな「宅配ボックスの父」は「ライオンズマイボックス」の発表会の挨拶をこのように言って締めくくった。

「マスコミのみなさん、どうぞよい報道をよろしくお願いします」

 「宅配クライシス」の深刻化と比例するように、「宅配ボックス」をめぐる情報戦も激しさを増していくのは間違いなさそうだ。

【関連記事】
ヤマトの運賃改定に続きたい「宅配便業界」vs「アマゾン」
宅配業界大揺れ! なぜ佐川急便はAmazonから撤退したのか
なぜAmazonは低賃金にあえぐ小売業界を潰すのか?
自動運転車がヤマト運輸に取って代わる日
ヤマト運輸「人を増やせない時代に“物流”を成り立たせる」