大学時代、AO入試についての本を出版

【田原】大学に入って、本を書かれたそうですね。どんな本ですか。

【矢島】私はAO入試でしたが、当時は情報が少なくて苦労しました。おそらく情報を知りたい受験生はほかにも大勢いるはず。私の体験したことを伝えられたらと思い、AO入試の本を書きました。

「和える」社長 矢島里佳さん

【田原】でも、誰でも本が出せるわけじゃない。出版社はどうしたのですか。

【矢島】つながりは何もなかったので、受験本を出している出版社に電話しました。といっても、代表電話で用件を切り出しても相手にしてもらえません。本のあとがきや奥付に書いてある編集者の名前をお伝えして取り次いでいただきました。

【田原】それで会ってもらえた?

【矢島】はい。「もう原稿を書いたので、ご覧いただけますか」と話すと、「原稿があるなら持っておいで」と。みなさん優しくて、出版できそうな会社を紹介してくださった方もいました。そのつながりで、結局、ゴマブックスから出すことができました。

伝統文化がある国はそう多くない

【田原】日本がお好きだけど、学生のときには海外旅行にもいろいろ行かれたそうですね。アメリカ、シンガポール、ベトナム、中国……。外国に行ってみてどうでしたか。

【矢島】私はずっと日本で暮らしていたので、国に伝統文化があることはあたりまえだと思ってきました。けれども、海外に行くと、そうではありませんでした。たとえばシンガポールは今年で建国52年の若い国。日本には創業100年を超える老舗がたくさんあるのに、シンガポールは100年前に国自体ありませんでした。逆に歴史が古くても、文化大革命があった中国のように古いものが破壊された国も多い。最近、自分たちの伝統のルーツを求めて日本に伝統産業品を買いにいくという中国の方もいらっしゃいます。海外でそうした現状を目の当たりにして、先人達の知恵が蓄積している国で生まれ育った私は、幸運だったなと。

【田原】いま中国の外務大臣をやってる王毅さんは、元駐日大使でした。その時何度もお会いしたけど、王毅さんは文化大革命のときに学生で、李白や杜甫などの詩を読めなかったそうです。僕が読んで教えてあげると、うらやましいと言われました。たしかに日本のように伝統文化が受け継がれている国は珍しいのかもしれない。それで、自分は幸運だと思った矢島さんは何をしたのですか。

【矢島】「和愛」というサークルをつくりました。着物を着て、日本の文化を楽しむサークルです。たとえば日本酒の利き酒師の資格を持っている人に日本酒の魅力を教えてもらったり、京都に行って和菓子をつくる体験をさせていただいたり。2カ月に1回くらいは何かしらイベントを企画していましたね。

【田原】イベントをやるとお金がかかるでしょう。どうしました?

【矢島】学生が伝統に興味を持つことに共感いただいて、応援してくださる方がけっこういらっしゃいました。たとえば日本酒の酒蔵の方が日本酒を提供してくださったり、リサイクル着物ショップの会社と一緒に学生向けの販売イベントを開催するなど、企業のみなさまの応援で成り立っていました。

【田原】そのころ、伝統産業の職人さんたちにたくさん会ったそうですね。それもイベントで?

【矢島】別です。伝統産業に興味を持ったのですが、学生だったのでそれほど頻繁に旅行にいけないし、女子大生が訪ねて行って職人さんたちの貴重な時間をいただくのも申し訳ないという気持ちがありました。でも、やっぱり直接会ってお話を伺いたい。いろいろ考えた結果、自分がジャーナリスト志望だったことを思い出しました。プライベートで無理なら、仕事をつくって取材でお話を聞きに行こうと。