あまりの問題の多さに神頼みしたことも

トラブルの中で忘れられないのが、タンザニア工場でつくった蚊帳をトラックでA国を経由してB国に輸送する途中、A国との国境で止められた一件だ。何台ものトラックすべてが足止めを食らい、そのせいで毎日何百ドルというお金が落ちていく。

「すぐに現地に飛びました。頼みの保健省の担当者には会えず、仕方ないのでその他の関係者を当たりました。最終的にはトラックは動いたんですが、結局なぜ止められたか納得できないままです。買ったほうのNGOは『荷物が遅い。ペナルティーを課す』と怒りだし、今度はNGOの本拠があるワシントンに謝りに飛びました」

数々のトラブルを経験する間、マーケティング部長、事業部長と責任は重くなる。事業部長時代はあまりに問題が噴出するので、部長3人と東京・深川の八幡宮に行っておはらいまでしてもらった。

ファイロファックスの手帳。図を描きながら思考をめぐらせることが多い。

蚊帳の事業は入札が通れば膨大な数になり、会社としては社会貢献の一環にもなるが、一つとしてスムーズに進むことはなく、ネゴの繰り返し。鍛えられるわけだ。

2016年は執行役員に就任した。担当する事業は蚊帳のほかに家庭用殺虫剤や動物用薬剤、さらには飼料添加物を扱う新しい事業部も見ることになった。就任のとき、石飛修会長から「大きいことを考えてくださいね」と言われた。グローバルな中に放り込まれて力をつけてきた広岡さんへの期待度がうかがえる一言である。

■Q&A

 ■好きなことば 
しあわせはいつもじぶんのこころがきめる(相田みつを)

 ■趣味 
ゴルフ(下手ですが)、洋楽(大学生の息子とコンサートに行くことも)

 ■ストレス発散 
寝ること、夫に愚痴を言うこと

 ■愛読書 
伊坂幸太郎

澁谷高晴=撮影