広岡さんは化学メーカーでずっと傍流を歩んできた。キャリアの前半は外資系企業で殺虫剤の担当、後半は日本企業で蚊帳の担当。でも傍流だったからこそ自由に、そして思いきり仕事ができ、専門性とタフな場面での交渉力が身についた。

きれいなオフィスで9時5時が理想だったのに

広岡敦子さんは以前勤めていた外資系化学メーカーで「シロアリの女王」と呼ばれていたそうだ。ずっとシロアリや蚊を駆除する殺虫剤の営業や生産管理を担当してきたからだ。10年前に住友化学に転職してからはマラリア予防の蚊帳一筋。女性のキャリアとしてはかなり珍しいだろう。

住友化学 執行役員 広岡敦子●1982年外資系投資銀行入行。その後外資系大手化学メーカーを経て2006年住友化学に転職。入社後は蚊帳の事業展開を一筋に10年。16年より執行役員。

「常に会社の傍流を歩いてきたおかげで自由に仕事ができました」

もちろん若手の頃はそんなキャリアになるとは想像してもいなかった。第一、大学を卒業したときは「9時5時みたいな形でカッコ良く働きたいと考えていました」という女性。きれいなオフィスで、英語を使って仕事をする、カッコいい外資系の雰囲気が好きだった。

日常業務ではこんな“かわいらしい”ミスをおかす社員だった。

役所に資料の申請に出向いたとき、窓口の人から「これ、隣の事務所でコピー取ってきてください」と言われた。役所の隣のビルにコピーサービスがあった。ところが広岡さんは役所内の隣の部屋に入っていって、職員用のコピー機を使ってしまう。

「今そんな部下がいたら、バカじゃないのと言うでしょうが(笑)」

後にアフリカ諸国の政府や国際機関と渡り合うタフな広岡さんからは想像できない笑い話だ。