直観を体系的に調べて学ぶには

実はこの実験の中で、この“自分の評価を傷つけない程度に、些細な不正から何かを得ようとする気持ち”を減らすためにしたのはこんな細工だ。

・1組目には、「高校時代に読んだ本を10冊」思い出すように促す
・2組目には、「十戒」を思い出すように促す。

『予想どおりに不合理』ダン アリエリー (著) 熊谷淳子(翻訳) 早川書房

「十戒」とは、旧約聖書に書かれたモーセが神から授かったとされる戒律のこと。たとえば「盗んではいけない」「偽証してはいけない」「父母を敬う」といった内容がつづられている。結果は、十戒を思い出させた人たちは、誰もズルをしなかったそうだ。あるいは、倫理規定にサインをさせるだけでも同様の効果が働くという。つまり、「モラルに少しでも触れた瞬間に不正が減る」というわけだ。

多くの場合は“誰でも”この些細な不正から何かを得ようとする心理が働き、それは小さいほど行動に移しやすい。冷蔵庫の上の500円玉は盗らなくても、冷蔵庫の中のコーラの缶は失敬する。お金には直結しないときには罪悪感は薄れ、罪だとわかっていても、罪をしている実感はわきにくい。

先のコンクールも展覧会も、主催者たちにとっては直接金銭を奪っているわけではないので、罪の意識を感じにくく、仲間がみんなでやっていれば「このくらいは……」といった認識になってしまうのかもしれない。しかし、教える立場の人間たちが、子供や生徒の目の前でやっているのだ。これは大きく判断を間違ってしまった例だろう。

ダン・アリエリー氏はこう語る。「自分の直感をより体系的に調べる事が出来れば、物事はもう少し上手く運ぶのではないか」

「誰でも、少しのズルをする可能性がある」というのだから、ビジネスの場でも生活でも、ときには自分の判断をしっかりと見直す時間をとってみたい。特に政策決定の場で直観をどう使うべきか……そう、今国会で話題の方々には特に必要なことかもしれない。

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