母は私の人生の根源です

私にとって母はすべての根源。最近、「親は死んでからが勝負だ」とよく思います。母が亡くなってからは、「あの時、こう言っていたな」「ああやって乗り切っていたな」と毎日思い出します。娘も今は「ママうるさい」なんて言っていますが、「私が死んだら毎日思い出すぞ~」とほくそ笑んでいます(笑)。娘には意外とつまらないことを口うるさく言っていますが、なにより“真剣に生きる後ろ姿”を見せようと思っています。そういう母親の姿が娘の今後の人生の糧になるだろうから。

(上)アンティークが大好きだったお母様のコレクション。「娘たちが独り立ちした後は毎朝、このティーカップで紅茶を飲みながら、写真の孫たちに話しかけていました」(下)お母様が大好きだった絵。「後ろ姿が母にそっくりなんです。」

政権が、社会が推奨するからとか、そんなことじゃないんです。そんなことがなくても私は同じように生きてきたと思う。私の血に宿っている母のDNAというか、私は母の魂を引き継ぎ“母が果たせなかった人生を生きたい”、そんな突き上げるような思いでやってきたのです。

がんで亡くなるまで、母はいつも言っていました。「あなたたちを抱きしめてあげたい……」と。そのときの“あなたたち”は小さい頃の娘たち。最後の瞬間まで母親でした。死ぬ間際まで娘たちに愛を注ぎ、力をあげようとしていたのです。

私もカナダにいる娘に会うと、ギュッと思いきり抱きしめます。「幸せでいてほしい」、ただそれだけ。家族や子どもは、女性にとてつもない力をくれます。子育て中、あらゆるジレンマでつらくて仕方ないのは、途方もない愛ゆえ。こんな危機的経験から得る力こそ、とてつもないResiliency(弾力性)となり、女性を成長させてくれます。だからどうぞ、そんな時期を大切にしてください。子どもが成長すると、「あれは一体何だったの?」と思うようなすべてが報われる幸せな時が必ずやってきます。だから働くママは、焦って答えを出さないで。

私が母を見て生きてきたように、娘が私のような母親を見て、どんな道を歩んでいくのか楽しみです。娘には思う存分自分の人生を生きてほしい。すべてを享受し、すべてを持ってほしい。そのためにも私はますます元気で頑張らなきゃ。娘が安心して働けるよう70歳で孫と公園デビューを果たすことが、今の私の大きな夢なんです(笑)。

吉田晴乃
BTジャパン 代表取締役社長。1964年東京生まれ。慶應大学卒。92年、結婚を機にカナダへ移住し、離婚後99年に渡米。NTTアメリカに入社。2008年、ベライゾンジャパンを経て、12年、BTジャパン代表取締役社長に就任。15年、日本経済団体連合会審議員会副議長に就任。

蓮池由美子=構成 国府田利光=撮影