2017年4月14日(金)

なぜ、取調室といえば「かつ丼」なのか?

dancyu 2015年6月号

文・神田桂一

「かつ丼食べるか?」刑事の温情にふれた容疑者は一気に平らげると泣き崩れて真相を語り出す――。そんな、ドラマのお約束シーンに「かつ丼」が登場する理由を関係者に徹底調査!

本当に出てくるの? カツ丼伝説の謎を追う

その日、私は某警察署の窓口に立っていた。目の前の女性警察官に趣旨を説明したが、彼女の顔は引きつっている。背後では、首謀者の編集Sが、にやにやしながら私の背中を眺めていた。

知らない番号から電話がかかってきたのはこの日の朝のことだ。

「初めまして、dancyuのSと申します。実は企画の相談がありまして」

話を聞くと、私が得意とする取材ルポというではないか。しかも、かつ丼は好物だ。ちょうど時間が空いていたので、もう少し詳しく聞こうと編集部に向かった。

「今日は、『なぜ、取調室といえばかつ丼なのか?』というテーマで調査してほしいんです」

ふむふむ、面白そうじゃないか。

「すぐ近くに警察署があるので、今から行って取材しましょう。アポはとってないんですけどね(笑)」

えっ、今からですか、という言葉を飲み込んだ結果、今、私は窓口の女性警察官と向かい合っている。

「あのー、なぜ取調室にかつ丼が出るのかを……取材していて……」

彼女が怪訝そうに見つめる。

「……少し待っていただけますか?」

窓口の向こうは、厄介な人が来たという空気に。そりゃそうだ。私だって、聞きたくて聞いてるんじゃない。大体、正直に言えばテレビで見て知っているのだ。今は取調室でかつ丼を食べさせることはないってことを。程なくして、男性警察官が現れた。

「今は、取調室で何かを食べるということ自体がありません」

ほらね、やっぱり。彼が言うには、食事をするときはいったん留置場に戻るのだとか。自弁といって出前を頼むこともできるが、提携の業者とメニューが決められているので、自由には頼めないという。

そのメニューにかつ丼はあるのかと尋ねると「あるともないとも言えません」。提携業者は?「それも答えられません」。うーむ、それくらい教えてくれても……。

「もし外部に知られたら、毒物混入などの危険性がありますから。わかってください」

なるほど。やっぱり、取調室でかつ丼なんて、現実にはないのか――。

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神田 桂一